「砂房SOLUS(さぼうソーラス)」と名付けた工房で
サンドブラストやロートアイアン作品を作る加藤耕平さんは、
鉄工会社を営む父親の鍛冶仕事を見ながら育ちました。
町の小さな鉄工所の未来を模索し、思いを馳せながら創作します。
サンドブラスト
サンドブラストとは、素材の表面に砂(研磨材)を吹き付けて模様を彫る加工方法。
加藤氏がこのサンドブラストをはじめるきっかけになったのは、大好きなコールマンのランタンに自分の名前を彫りたいと考えたことでした。
実験作品を当時発信していたブログに載せたことで東京の「彫刻硝子ワタベ」の渡部氏と知り合い、指導を受けながらキセガラス(被せガラス)への細工を始めました。
キセガラスは、透明なガラスの表面に色のついたガラスをかぶせて作られたもので、表面を削ることで模様を描いたり、削る深さの違いによって色の濃淡をつけることもできます。
サンドブラスト作品の制作は、まず、削る部分だけを残して素材をマスキングすることから始まります。
マスキングが済んだ素材の表面を、コンプレッサーで圧縮した空気に研磨材を混ぜて吹き付けて削るのですが、それには装置が必要です。しかし専用の装置は車1台が買えるほど高価な物。
そこで加藤氏は、サビを落すための作業に使っていた手持ちの装置を使おうと思いつきました。
しかし、細かい模様を描くには、適切な圧力で、適量の砂を効率よく細い噴射で吹き付けなければならず、そのままでは使えるものではありませんでした。
そこで、その装置を参考に、様々なものを材料にして、結局、作品制作用のサンドブラスター装置一式を自作してしまったのです(写真)。
砂が舞い散る作業のため、作業箱の中に腕だけを入れて細工をしますが、その窓つきのボックス部分も全て自作。また研磨剤が入っているボンベには赤い色に塗り、遊びゴコロで自社のロゴ等も入っています。
噴射される砂(研磨剤)は専用の樹脂の砂。砂が箱の中で舞い上がるのを防ぎ吸引する装置には、なんと家庭用の掃除機が利用されています。
父の赤いランタン コールマン
実は加藤氏、「コールマン」ファンの間でとても有名なオールドコールマンのコレクター。所持するコールマン製品は、ランタンだけでも60台以上。
SOLUSという工房の名前も、コールマンの金の真鍮製ストーブ(湯沸かし)からつけました。
加藤氏がコールマンの道具を愛するようになったのは、釣り好きだった父親が持っていた赤いランタンに端を発します。
ある日キャンプ道具を衝動的に購入したとき、昔、父親が使っていた赤いランタンを思い出し、探してみたところ、2台、出てきました。
そのころはまだコールマンの貴重さを知らず、
「あんな扱いをしてよく壊さなかった・・・風呂に入ったとき一緒に洗ったんですよ」と加藤さん。「コールマンファンが見たら、うわあ!って叫びますよね」
その古くて赤いランタンを点けてみると、光が灯りました。その明るさに驚いた加藤さん。
「その灯りにウイルスが入っていて、感染してしまったんです」
コールマンの灯を知っている人には共感できる逸話です。
それからはコールマンを探して各地の釣り具屋を巡ることもしました。
店の片隅で見つけると、自分を待っていたように思えるそうです。
そのころのお話は>
こちらの旧ブログで
鍛冶 ロートアイアン
父の会社「フジテッコウ(藤鉄工)」のあとを継いだ加藤さん。
「藤」はこの会社を立ち上げた二人の名前に共通していた文字。父の名前「加藤」、友人の名前「佐藤」。二人は独立する前、共に、大町にあった鉄工所で働く鍛冶職人でした。
日本の鉄工技術は、地震に耐えうることを前提に積み上げられて来た世界に誇る高技術なのだと加藤さんは言います。
「自分のことを「鍛冶屋」と言ってますけど本当はまだまだ未熟で「鍛冶屋」とは言えません。だから「かじや」と平仮名で書いたりしています」
大きな外階段などの製作の仕事の他、皆がもっと気軽に使えるものも作りたい、と、箸置きや、香立て、ペーパーウエイト、フック、ハンガーラックなども作ります。
鉄を熱し、打つ。
大きな力を加えなければ形作ることができない鉄で小物を作るのは大変な苦労のいることです。
どれも素朴で頑丈で、重く、「我は鉄である」と語っているような存在感のある作品。
箸置きは食べ物に接することも考え、ライスワックス(米糠のロウ)で仕上げます。
サンドブラスト作品と共に、「小樽ガラス市」や、伊達の「らくいちらくざ」などのイベントに出店して販売することも多くなってきました。
他にガーデントレリスやアーチも丈夫で使い勝手がよいと好評です。
初めての発表、販売
加藤さんが初めてサンドブラスト作品を発表したのは2008年の「らくいちらくざ」でした。(写真は2011年、今年のらくいちらくざ)
その時「女神様に会った」と加藤さんは言います。小さな硝子の浮きだまのルームライトを2つ買ってくれたその女性は、次の日「部屋に置いておいたら友達も気に入って」と、再び5つも買ってくれたのです。
「その出来事がなければ作り続けようと思わなかったかもしれません」
伊達のカウボーイ?
イベントなど表舞台に立って販売するときの加藤さんの恰好は「カウボーイ」です。
なぜカウボーイ?とたずねると、
「みんなに覚えてもらうためにこういう恰好をしようと思ったんですが、なぜカウボーイかというと、たぶん、コールマンのベルトのバックルのせいだと思うんです」
加藤さんの持っているそのバックルは、60年代製で、カウボーイっぽいデザイン。
最近ある店で、お客さんが加藤さんを見て店主にこう聞いていました。
「あの人、気になるんですが、誰ですか?」
それを聞いた加藤さんは「本望だ」と思ったそうです。
そういうわけで、ますますカウボーイ姿にハマっているそうなので、町でシャイなカウボーイを見つけたら、それはきっと加藤さんです。
発明家的なアイデアのセンスと、
コールマン製品が持つ「道具のうつくしさ」に惹かれる美的センス、
それが、加藤氏の創作の源のひとつであり、また目指すところなのかもしれません。
サンドブラスト彫刻ガラスとロートアイアンの個展(販売あり)
日時:10月3日(月)〜10月15日(土)までの2週間 10:00〜17:00 日曜定休
場所:
大町ミニギャラリー 北海道伊達市大町3−7(郵便局の斜向い)和美工房
砂房SOLUS 加藤耕平 フジテッコウ(有)藤鉄工
〒052-0013 北海道伊達市舟岡町205-15
営業 8:00〜17:00(21:00位まで応対可)
定休 日曜日、正月、お盆各三が日
TEL: 0142-23-5769 FAX: 0142-23-6352
むしゃなび内フジテッコウのページ
ホームページ
http://www.date-f.com/ ブログ
http://blog.mushanavi.com/fuji/
※記事の内容は取材時の情報に基づいています。
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