■紅蓮尼奇譚
以前、冥婚というか、むさかり絵馬の事をこのブログで紹介した事ありますが、それに似たお話しを今回、紹介しようと思います。昔、出羽国象潟に何不自由のない裕福な夫婦がいましたが、子供がいないのを嘆いて、観音様に願をかけたところ、可愛い女の子が生まれ、美しく成長していつしか年頃になった…。ある時、ふと思い付いた夫婦は、お礼参りのつもりで諸国観音霊場巡礼の旅に出た…。
その道中で、これも旅姿の中年の夫婦と道ずれになり、聞いてみると松島の人なので途中まで同行する事にした…。意気投合した2組の夫婦は、互いの身の上話を語り合ったのですが、驚いた事に何から何までソックリで、観音様にお願いして出来た子が象潟は女、松島は男
という点だけが違っていた。「これは観音様のお導きに相違ない。私どもの倅は小太郎と申しますが、いっそ子供どうしを夫婦にしたらいかがでしょう?」
松島の夫婦が言うと、「結構なお話しでございます。帰り次第用意を整え、松島へ参りましょう!娘は紅蓮(こうれん)と申します」
と象潟の夫婦も喜び、それぞれ打ち合わせを済ませて別れた…。
象潟に戻った夫婦が娘の紅蓮にこの話を伝えると、彼女も観音様のお導きだというので喜び、早速準備を整えて両親共々松島へ旅立った…。
ところが!松島へ行ってみると、不幸にも相手の小太郎はすでにこの世を去っていた…。紅蓮親子は落胆し、小太郎の両親もなき縁と諦めてお引き取り下さいと涙を流した…。すると紅蓮は、「この世におられなくても、小太郎様は私の夫。私はお位牌と結婚致します!」と断言した!
両家の親たちは驚き、なだめたり、すかしたりしたみたいなのですが紅蓮は頑として聞かない!ついに花の盛りで位牌と結婚!紅蓮は小太郎の両親に仕えるようになったらしい…。やがて、紅蓮に見取られて小太郎の両親が亡くなると、紅蓮は瑞巌寺の明極禅師に師事し、尼となって夫の菩提を弔う決心をした…。
心を慰めるのは、亡き夫の幼き日に植えた梅が大きく育ち、春ごとに美しい花を咲かせる事ですが、それだけに花を見ると夫が恋しくて悲しくなる…。
植えおきし花の主ははかなきに軒端の梅は咲か
ずともあれ
思いつくまま歌を口ずさんだところ、翌年には花が咲かなかった…。さては梅には夫の霊が宿っているに違いないと思い、別の歌を詠んだ…。
咲けかしな今は主とながむべし軒端の梅のあら
むかぎりは
不思議にも梅は、再びたくさんの花を咲かせ、紅蓮尼の草庵を美しく飾ったという…。
秋田県象潟の蚶満寺には、紅蓮尼の石碑と純愛を捧げつくした彼女の像が祀られています。