■頑固に守る老舗の味
前回の杏林大学病院の診察の時に担当医から、『手術を控えているので、風邪をひかないようにして下さい。そして、予防注射を打って下さい』と言われた。それなのに、言われたその日に風邪をひいてしまった。 しばらくは家で静かにしていて風邪を治そうと思っていた。
ところが、2週間も経つのにまだ治らない。
28日はどうしても銀座に行かなければならない用事があった。
銀座の老舗の和菓子屋『空也』に最中を注文してあり、その日に引き取りに行かないといけなかった。
お世話になった方々へそれを送る為である。
空也は明治12年に創業のいわゆる老舗の店である。
東京に住んでいるなら、この店の名前を知らなければ『教養が無い』とまでは言わないが、少し恥ずかしい。
支店などは出さないし、デパートにも出さない。
頑なに本店だけでの営業を貫き、地方発送などもしない。
空也の店
空也の最中を買うには、電話で注文し、指定の日に引き取りに行くしかない。これは不便ではあるが、ありがたみも増す。
そうかといって、店の人は威張って商売をしてはいない。
むしろ謙虚である。
ある人は『空也の最中は買うものではない。もうらうものだ』と言った。
確かにその買うことの大変さを考えると、そうかもしれない。店の人に聞いたら、もう年内の注文は受けられないと言う。老舗の味を味わうのも、大変な苦労が必要なのである。
やっとの思いで買ってから高速道路に乗る為に東京駅のそばを通った。
すると左手に銀杏並木が素晴らしく綺麗に見える。
それは東京駅の丸の内口から皇居に繋がる真っ直ぐの道にある。
皇居の銀杏並木
風邪をひいているのも忘れてカメラを取り出して、車を降りてから数枚を撮る。
家に戻ってから、撮ったばかりの写真を見ながら熱い緑茶で食べた空也の最中はなんとも美味しかった。
(おまけの話)
世の中には老舗と言われる店は多い。
でも、大多数の老舗は時が経つに連れて、初代が必死になって築いた家訓を忘れて金儲けに走る。
そして、気が付くといつの間にか消え去ってしまっている。
私の女房が日本料理を習った江戸を代表する料理屋の八百善もそうである。
黒船に乗ってやって来たペリー提督をもてなした料理屋として歴史にも登場する。
そんな由緒正しい料理屋も、バブルの頃に支店を出して、その後のバブル崩壊と共に消えてしまった。
消えるには惜しい料理屋であった。
老舗の代表格『虎屋の羊羹』はいまや全国どこのデパートでも買える。文明堂もしかり。
どこででも買えるとなると、ありがたみも薄くなるが、同時に製造元も気が緩むのか、もっと金が欲しくなるのか、インチキをし出す。
船場吉兆がその代表格だろうか?それで赤福もこけた。
そんな中で金儲けには目もくれず、ひたすら伝統を守る空也に心を打たれる。
次の代の後継者も支店など出さずに、今のスタイルを守って欲しい。
・・・と、いうわけで、風邪はぶり返している。