■木下大サーカス
この夏は、札幌の月寒(つきさむ)ドームで開かれている“木下大サーカス”の人気がすごい。わたしたちの自治会でも、これを見に行こうというバスツアーが企画されて、先日見に行ってきた。
いくつかの町内会の集まりで、バスを1台仕立てて、40名くらいのツアーになった。夏休みでもあり、子供たちの参加も多かった。バスに乗るときに役員のおばちゃんから、一人一袋のお菓子のお楽しみ袋とお茶の飲み物をもらって乗り込む。
往路は453号線を使って、美笛峠を越えて支笏湖の湖畔を通り、初めに新千歳空港に向った。サーカスの見学は夕方からなので、その前に新装成った千歳空港の中をのぞいて、ここで昼食タイムをとった。
夕方に月寒の会場に着いた。人出が多い。
サーカスの会場は巨大なテントが張られている。前の公演が終わり会場の人々が出てくる間は、外に設けられたテントの中で、「団体」、「指定席」、「自由席」などのチケットごとに列を作って待つ。何千人かの人々を入れ替えるのに、どのように手際よくやるのか興味があったが、2つの出入り口からチケットの種類ごとに順序良く入場させていた。
われわれは、側面の席であったが、前の方で比較的見易いところだった。
目の前に、15mくらいの直径の演技広場がある。演技が始まる前にピエロが二人出てきて、巨大な柔らかボールを客席に投げ込んで客との間でピンポンをやって場を盛り上げる。
わたしはサーカスを見るのは、おそらく生まれて初めての体験である!?小さいときに、もしかして連れられて行ったことがあるのかもしれないが、どうにも思い出せない。身近で“サーカス”という言葉は聞いていたように思う。「木下サーカス」、「ボリショイサーカス」、「小暮サーカス」という名前は聞いていたように思う。そのポスターか何かを見ていたのだろうか?
たまたまこれを書いていた頃に、弟と電話で話す機会があった。弟は小さいときに、確か後楽園で開かれたサーカスに行った記憶があると云っていた。わたしの記憶は、どうもすっぽりと抜けているようだ。
シマウマが数頭足並みを揃えて会場を回る。姿が美しいものだ。象が後ろ足で立ったり、鼻で帽子をつかんで子供の頭に被せたりする。白いライオンが4頭も出てきた。これを含めて10頭のライオンが調教師のムチに合わせて、輪の飛び抜けやイスの上に並んだりの演技をする。キリンはすらっと背が高い。背中は水平ではなく、頭からお尻にかけて傾斜したままに抜けていく。だから前足は後ろ足より長いのだ。歩き方が優雅である。
ライオンのショーをやる前に休憩タイムが入ったが、そのわずかな時間で円形会場の周囲に鉄の柵をスピーディに並べた。高さ4~5mの20枚くらいの鉄の柵を隙間なく並べて円形を作っていく。パーツ同士を素早く連結して、最後に天井に巨大なネットを掛けて、猛獣たちのショーの檻が完成する。係りの人々が手際よくやっていく。何でも準備と後片付けの手際がよい。
マジックというのか今風にイリュージュンというのか、目の前で見ていても不思議だと思う。女の人が箱の中に入って次に開けると消えていたり、お人形を箱の中に入れたはずなのに、次に開けると中からお人形と同じ服装の女の人や犬が出てくる。どこに隠れていたのだろう?箱は地面に直置きではなく、細い足を介して空中に浮いていたので、下からの出入りは出来ないはずだし、何とも不思議だ。
木下サーカスの札幌公演は、実に89年振りだそうだ。89年といえば前回は、大正時代だった訳だ。これだけの大きな機材や多くの動物たちを連れて、各地を巡業して回っているのは大変だろうな。夏場は北の地域で、冬場は南の方を回るのだろうか?
西岸良平の漫画「三丁目の夕日 夕焼けの詩」単行本5巻に「サーカスの夜」という一話がある。大人になって思い出すサーカスの晩の幻想的な雰囲気。
この一話にも出てくるのだが、僕らが小さい頃は、夕方遅くまで外遊びをしていると、
「サーカスにさらわれてしまうよ!」とおどし文句があった。また、サーカスの人が柔軟な演技をするのは、毎日酢をいっぱい飲んでいるからだ、とまことしやかに云われていた。
今から思えば随分とサーカスに対する偏見があったのだなあ。
サーカスの演技のスリルと興奮、ピエロなどの異国情緒、そして常識の埒外にあるものに対しての偏見などがごちゃまぜになった空気が、サーカスという言葉を包んでいた。
夕焼けの詩では、
「子供時代、サーカスに対して抱いていたあの不思議な感情は、何だったのだろう?」と締められていた。
日本初登場「空中大車輪」というアトラクションがあった。人が立って入れるほどの円形の金属製の輪が左右にある。この間を金属の部材がつないだ長さ10mくらいの構造体である。これが真中部分で軸支され空中に浮いて回転できるようになっている。もちろんこれだけの大きな構造体をしっかり軸支するために、建屋の基本構造物から頑丈なワイヤロープが張られて支えていた。この左右の巨大な輪の中に人が乗って、重心を移動させながら大回転していく。時にスピードを上げて回ったり、時に輪の外側に飛び出したり、スリル満点の演技であった。
斜め上方に伸びる一本のロープの上をバランスを取りながら歩いて登っていく。あるいは、つま先で滑り降りてくる。この演技もハラハラ、どきどきする。
新体操のように、フラフープを自在に操る演技。5本くらいのフラフープを身体の各所で同時に回している!首や胸、腰、腕、膝あたりで同時に回っている。身体にどのような指令を出すとあのように回せるのだろうか!?
会場の奥に、巨大な鉄製の球形かごがあり、この中をオートバイが水平に、垂直に、斜めに爆音を鳴らしながらぐるぐると回る。初めは1台、続いて2台、3台のオートバイがスピードを上げて駆け巡る。しかもかごの底に二人の人間がいるのを避けながら回る。ちょっとタイミングがズレたらぶつかってしまう!
女房は、小さいときに見たサーカスでの、オートバイのショーを忘れないと云う。当時なので1台だけだったが、水平とか上下逆さになって回っているオートバイの姿が強烈に脳裏に焼き付けられたようだ。
サーカスの一番の華といえば、「空中ブランコ」であろう。最後の演目として、華やかに演技された。左右両方の立ち台からブランコに乗って空中に飛び出し、一方が手を離して空中に飛び出し、それを空中でキャッチする技は、見ているものをハラハラ、どきどきさせる。両方とも目隠しをして演じ、うまくキャッチしたときは大拍手だった!
空中ブランコ、オートバイのショー、綱渡りなどのスリルと興奮、動物たちの演技のほほえましさ、マジックの不思議さ、ピエロの演技のユーモアなどなど2時間強の時間があっという間に過ぎていく面白さ。子供から大人までが共に楽しめる場であり、時間だった。
“サーカス!いくつになっても一種独特の空間”
(2012-8-17記)