■「怖い絵」の本当の怖さ
女房と私は読む本のジャンルが違う。 そこで、時々、私は彼女の読み終わった本を読む。
その中に「怖い絵」という本があったので、それを読んだ。
この本はヨーロッパの有名な絵画に秘められた怖い逸話を紹介していて、かなり面白い。
その本からの解説を少しだけ受け売りしようと思う。

1番目にはドガの「踊り子」である。
バレーを習う少女というと、裕福な家の子供の習い事のように感じてしまうが、当時のオペラ座というのは上流階級の男達の為の娼館であった。
だから、バレリーナというのは娼婦である。
それを知って見る「踊り子」は、全く違う絵のように見える。

2番目にルドンの「キュクロプス」
これは神話を描いたもので、作者のルドンが虐げられて育った幼少期の経験が、陰から覗く大きな目となって表現されている。今風にいえば、ストーカーである。
3番目にゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」
これも神話で、予言で子供に殺されることを告げられて、それを恐れて我が子を食べてしまう絵である。
日本では鬼子母神がそれに当るが、鬼子母神は他人の子供を食べたのである。

4番目にアルテミジア・ジェンティレスキの「首を斬るユーティスト」
これも神話からとった絵であるが、女性2人に寝首を掻かれるというのは男にとってかなり怖い。
この本を読んで、本当の怖さはそれらの絵ではなく、その背後にある時代の事情の方だと分かったのである。
でもこんな付け焼刃では、ヨーロッパ絵画では伊達一番の博識で、コレクターのIさんには馬鹿にされそうだ。

(おまけの話)
スイスのローザンヌに、アール・ブリュット美術館がある。
この美術館は精神を病んだ人達が書いた絵画を多く集めてあり、それを公開している。
20年以上も前に家族3人で、そこを訪れたことがある。
市内からバスに乗り、15分くらいの郊外に美術館はあった。ところが、そこに飾られている絵を見て驚いた。

「ホロフェルネスの首を斬るユーティスト」
今までに見たことが無いような絵画ばかりだ。
絵が私を惹きつけて離さない。
岡本太郎も顔負けで、「爆発」している。
暫く絵画を見た後に美術館を出たら、めまいがした。
あまりに強烈な個性の絵に、私の脳が付いて行けなかったのである。
女房はその後、暫く頭痛が治らなかった。
これもまた「怖い絵」である。