■教養人と能を見る
同級生のY君が時々、珍しい企画に私を誘ってくれる。 私が小金井に住んでいた時は、誘われれば殆ど参加した。
ところが、中央区に引越してからは、Y君の誘いを断るケースが増えて来た。その理由は、「八王子近辺の企画が多い」からだ。
国立能楽堂入口
そのY君が、久し振りに誘って来た。
『今回は都内での催しです。』という書き出しのメールだった。もうこれだけで断り難くなる文章だ。
更に、『国立能楽堂で新作能の「影媛」が上演されます。正面席2列目が入手出来ました。』とあった。
もう断れなくなった。
国立能楽堂
人には色々な趣味があるが、Y君の趣味は謡曲である。
「謡曲」と言われると、私は参る。
謡曲という言葉には、なんだか教養の響きがある。
普段のY君からは教養という文字は浮かばないが、謡曲の話をする時ばかりは別人となる。
国立能楽堂では新作能の為か、普段は行われない解説が最初にあった。また、前の座席の背中には液晶画面が設置されていて、演者のセリフや謡が文字で表示される。
これは素人の私には助かる。
新作能「影媛」の入場券
それにしても、能の脇役は大変だ。
謡曲師達は100分もの間、板の間にズーと正座しっぱなしだ。
また、鼓の役は100分間、ズーと鼓を平手で打っている。
終ったら、手が真っ赤に腫れているんじゃないかと心配した。
退屈して眠くなることを覚悟して行ったのだが、最後まで眠らなかったので、自分でも驚いた。
その理由の1つに、この節電の時代に、館内の冷房が効き過ぎていて、寒くて参ったということもある。
影媛のプログラム
(おまけの話)
私の育った家には大きな能舞台があった。
舞台正面には大きな松の絵が描かれていた。
その舞台の上で床を蹴ったり、手を打ったりすると、床と天井が共鳴してルルルーンと音が響いた。
この家は元黒埼子爵という人の別荘だったもので、昔は東京の人にとっては小金井辺りは別荘地だったようだ。
国立能楽堂の能舞台
ある時、小学校の遠足で日光へ行った。
そして薬師堂で有名な「鳴竜」を見学した。
先生が天井に描かれた竜の下で手を打つと、ブルーンと音が響いた。
でも、私にとってはどうということもなかった。
我が家でいつも経験していることだったからだ。
いま考えると、引率の先生にとっては、「可愛くない子供」だったろうなー。