■1年に1度だけ会う不思議な人達
また正月がやって来た。 正月になると私はみんなとは違い、例年のように働きに行く。お正月に飛騨高山の絵馬をホテル・ニューオータニで売るようになって4年目である。
その前は横浜高島屋デパートで売っていた。
デパートで売る方がはるかに売れる。でも、デパートの場合は横浜だったので、通勤に時間がかかって大変だった上に、開催期間が11日もあって疲れた。
そこでデパートは1年で止めてニューオータニにした経緯がある。これは趣味なので、売れれば良いというものでもないところが難しい。
私達の場所である地下2階の日枝神社の門前はいつもの不思議な顔ぶれである。
江戸玩具、飴細工、唐辛子売り、似顔絵描き、バナナの叩き売りのネエチャン、手相見の年齢の30歳も離れた夫婦などで、みんな元気だった。
現役の時には知り合えなかった人達と交流して、これはこれで知らない世界を垣間見ることが出来て楽しい。1年に1回しか会わない人達なのに、とても親しくしている。
今年のニューオータニは部屋をリフォームしたので、宿泊料金も上がった。
4人家族で正月プランで泊まると100万円は必要だ。
そんな人達が私の絵馬のお客だが、彼らはなかなか買ってくれない。
そもそも『日枝神社の門前で、なぜ飛騨高山の絵馬なんだ?』と聞かれると、私も返事のしようがない。だからあまり売れないのかもしれないなー。
『これは縁起物ですから・・・』なんて、私にもよく分らない説明をしている。買わない人達は我々のことを『お正月から働いていて、多分苦労しているんだろうなー。気のどくだなー』と思っているに違いない。そういう風な態度が顔に出ている。
ホテルのお客は毎年来ている人達が多い。
絵馬を買ってくれるお客は毎年買ってくれる。多分、絵馬のお陰で昨年は良いことがあったのだろう。会社の倒産などかなり悪いことがあれば、そもそもホテルに来ていない。
私の関係者では仏像彫刻の先生、台湾から来て日本で再婚をして幸せを掴んだ夫婦などが来てくれた。みんな昨年は絵馬で良いことがあったに違いない。
遠く北海道伊達市からも新年早々に携帯メールでRさんとKさんが注文してくれた。
もう1人のKさんは年賀の電話をくれたが注文はしてくれなかった。
(おまけの話)
お昼の御飯はホテルの裏方にある社員食堂で食べる。食券を渡されて、表の絨毯敷きとは全く雰囲気の違うPタイルの通路を行くと食堂がある。食券を渡して数種類のメニューから選んで自分で受け取って席に着く。
カウンターの向こうのオバチャンが私を見て、『高山はもう雪なんだろうね~。どのくらい積もっているの?』と声をかけて来た。私は返事に困った。『私は東京に住んでいます』なんて言ったらオバチャンの夢を壊してしまう。
そこで曖昧に『もう相当積もっていますよー』なんて、なんだかよく分らない答えをする。
すると、『高山は食べ物が美味しいんだってねー』ときた。
私は高山は10回くらい行っているので、食べ物は詳しい。そこで、『美味しい物が沢山ありますよ。是非とも一度来て下さい』と地元民を装う。
その返事でオバチャンは満足そうだったので、トレイを持って席に向かったのである。
元旦はお雑煮も付いてきた。2日目からは普通のメニューになる。ここでは長い帽子を被った外国人コックも大勢食べている。だからこそ言いたい。
『材料は落としてもいいから、お客に出すくらいの味の料理を出してくれー!』