■「ゆりかもめ」がやって来た。
日に日に陽が落ちる時間が早くなって来ている。 10月後半になると、東京では午後5時には暗くなる。
そしてあれだけ暑かった夏の記憶も薄れてしまい、寒さを感じるようになる。人間って、忘れっぽい。

その頃になると、気が付いたら「ゆりかもめ」が隅田川の上で舞っている。遠くカムチャッカからやって来て、東京で越冬をするのが毎年の習性である。
この鳥が東京湾の沿岸で多く見られるので、湾岸を走る東京臨海新交通臨海線を「ゆりかもめ」という愛称に決めたのである。

私の朧げな記憶では、「ゆりかもめ」は10月に隅田川に飛来して、翌年の3月末には北の国に戻って行くように思う。
同じ鳥が毎年、来ているのかどうかは分からないが、それでも忘れずにやって来る。

昼間は日当たりの良い場所で、羽を休めている。
暗くなり出すと一斉に飛び立ち、どこかにあると思われる「ねぐら」に飛んで行く。その一瞬をカメラに捉えようと思い、夕方から晴海ふ頭に出掛けて行った。

晴海ふ頭の先端に小さな池があり、そこで彼らは水浴びをしたりして遊んでいる。暗くなると、東京タワーの左側に陽が落ちる。
私から「ゆりかもめ」を見ると、丁度、逆光になるので、良い写真になりそうと思った。

私と同じことを考えるアマチュア・カメラマンがいても不思議じゃないが、それが10人以上もいたのには驚かされた。
引退ジジイが考えることは同じなんだと、少し落ち込む。
小さな池の中には抽象的な芸術作品が飾られている。これが太陽の光を反射する。カメラマンが多く、なかなか良いポイントが確保出来ない。

誰もいない階段の上に行ってみたら、ここが意外に良いポイントだった。その時、私の前のコンクリートの壁の上に、赤トンボが飛んで来て羽を休めた。
「ゆりかもめ」の写真を撮っていると、太陽がビルの谷間に消えて行った。写真は満足が行かなかったが、都会の中でこんな時を過ごすのも贅沢だと感じて満足した。

真ん中あたりに「ゆりかもめ」の並んだ姿が見える。
(おまけの話)
私は家にいる時はスリッパを履いていたが、どうもシックリ来ない。
夏の間は裸足が良いのだが、「あなたが裸足で歩くと、フローリングに足跡が付くから止めて!」と女房に強く言われるので、我慢してスリッパを履いている。

ところが彼女が中央区のカルチャー・スクールで「布地で作る草鞋」というのを習って来た。そして私にもカラフルな1足を作ってくれた。
これがなかなか気持ちが良い。
しかし寒くなって来たので、靴下を履くと草鞋が履けない。

そこでまた彼女は出掛けた時に、5本指の靴下を買って来てくれた。
これがまた派手な色遣いで、他人には見せられない。
5本の指を靴下に入れるのは少し面倒だが、履いてしまえば気持ちが良い。今では気に入って5本指の靴下と草鞋の生活を楽しんでいる。
