■めでたくもあり・・・。
私は3月に誕生日を迎えた。年齢は多過ぎて忘れた。
しかし自分では誕生日なんて、全く「めでたい」とは思っていない。
室町時代の禅僧である一休宗純は正月を次のように詠んでいる。
「門松や、冥土の旅の一里塚、めでたくもあり、めでたくもなし」。
これが身に染みて分かるような年齢になったことだけは確かだ。
「春めばる新筍蒸し 桜餡かけ」(銀座 KAPPOU UKAI)
毎年のことであるが、この日になるとベトナムの日本語学校の女性副校長のMさんから国際電話が掛かって来る。そして「お誕生日おめでとう御座います」と言われる。
彼女も私と同じ日が誕生日なので、それが嬉しいらしい。
日本語が完璧でないMさんにベトナムでの新コロナウィルスに関して質問したが、難しい問題に付いては彼女の日本語能力では少し分かり難かった。
「焼き新筍鰹節かけ」
女房の従弟でロサンゼルスに住む男性から、誕生祝いのメールが届いた。そこにはアメリカ西海岸の新コロナウィルス情報があった。
【サンフランシスコとその周辺は、全てのレストランが閉鎖になった。これから感染者がドンドン増えるでしょう。ダウジョーンズが凄い下落で、金利ゼロ策も効果無しです。Jさんのお兄さんは「持ち株の30%の価値を失った」と、電話で話していました】
「本マグロの手毬寿司と白アスパラ春魚のせ」。
そんなコロナ騒動の中で、女房は言った。「あなたのお誕生日祝いに、
銀座の和食店を予約した」。
女房が予約してくれた店は、銀座のKAPPOU UKAI 」であった。
アメリカではレストランも閉鎖なのに、日本は閉鎖などしない。
どちらが正解か?
ヨーロッパでは「外出禁止」の国もあるが、私はコロナに負けずに毎日、出掛けている。
調理人が目の前で作るのを見るのも楽しい。
少し前に女房は友人とこの店に来たばかりなので、店の者の愛想が良い。席はカウンターで、目の前で調理師が料理を行うのを見ながら食べる。
この店はかなり高級店のようでサービスする係の人数も多いし、手際が良い。酒を飲んでいないお客がいないので、なんだかきまりが悪く飲めない酒を飲む羽目になり、無理してノンアルコール・ビールを注文した。
「空豆とジャコの炊き込みご飯」
次々と出て来る料理(全8品)はレベルが高い。値段も高いわけである。料理の写真を撮っている野暮なお客はいないが、見栄を張らずにソッとカメラを構える。目の前の調理人は何も言わない。
事前に私の「誕生祝い」と伝えてあったらしく、汁物の時に大きなバースディ・カードが出て来て店の者だけでなく、お客も拍手をしてくれた。
少し恥ずかしかった。今回の食事代は、女房からのプレゼントだった。
調理人が総出でお祝いの拍手をしてくれる。「蛤と新昆布の汁物」
マネージャーの話では、コロナ不況で銀座の飲食店も経営が大変なようだ。それでも銀座辺りではビルのオーナーなどの不労所得で、不況とは関係ない人達も大勢いる。
それらしきお洒落な老夫人の2人連れが私の席の隣にいた。
銀座に来ると、色々な場面で貧富の差を感じさせられる。
店から外に出たら、銀座通りには自粛疲れの人達の姿が増えたような気がした。
デザートは「苺と完熟金柑のゼリーよせ」
(おまけの話)
「誕生日はめでたいか?」と聞かれれば、私は「大してめでたくない」と答える。これは人によっても、年齢によっても違うし、また変ることもある。
私でも、子供の頃は嬉しかった。年齢が上がり社会人になり、結婚前は実家でも祝ってくれなかった。だから両親も「めでたい」とは思っていなかったのだろう。
我が家で誕生日の食後に、立派なショートケーキが出て来た。
それが結婚したら、女房が祝ってくれるようになった。
更に子供が生まれて来たら、家族の誕生日を盛大にお祝いするようになった。子供が独立して、私の誕生祝いも中だるみとなった。
私が引退してからは私以外の家族の誕生日は、国内外に旅行に行くようになった。でも支払人の私にしてみれば、家やレストランで祝っている方が出費が少ない。
誕生日のプレゼントは猫好きの私の為に、猫の絵入りマグカップ。
リタイア生活というのは、現役の時と違って時間が有り余っているので、その時間を過ごすには現役時代以上にお金が掛かる。早くお迎えが来てくれないと、貯えも底を突く。
長生きを想定してお金を使わず寂しい時間を過ごすか、使い過ぎて最後に後悔するか。誕生日はお金と残り時間の競争である。
どちらが勝っても、あまり幸せとは言い難い。
LAから女房の従弟がメールで水彩画のプレゼント。
後ろに見えるのは電気自動車の「テスラ」。