■恐れ多くも国宝を彫る
以前に上野の国立美術館で薬師寺展が開催されて、その時の展示品の中に『日光菩薩』と『月光菩薩』があった。 日光菩薩は少し腰をひねった立ち姿で、なんとも魅力的であった。
日光菩薩像
そこで、私は恐れ多くもこの国宝の日光菩薩を彫りたくなった。
仏像教室の日に先生に申し出た。
『日光菩薩を彫りたいんですけど・・』
先生は『橋本さんにはまだ少し早いんじゃないですか』と、私の技量を知っているだけに適切な助言である。
そこを例の如く頑張って、渋々、彫ることを認めてもらった。だが、この仏像は先生も教材を持っていないので、見本も無い。
前から見た姿は写真にあるが、後姿の写真は無い。
あの時の薬師寺展では光背も取り払われていて、観客は後ろに回って見ることも出来たのに、その時は私もまさか日光菩薩像を彫るとは思わなかったので、よく見て来なかった。それが残念である。
それでもなんとか頑張って、それらしき仏像を彫ることが出来た。
前姿
でも実物の写真と見比べてみると、あまりに似ていない。
私の場合は創作は得意なのだが、模刻はまるで下手である。
・・ということは、まだまだ技量不足ということなのである。
後姿
(おまけの話)
今から1300年も前に彫られた日光菩薩像は実物は完全体ではない。
長い間に部分的に欠けてしまったところがある。
それは腕から垂れた薄い布で、両腕とも欠けている。
私はそれを復元するという大それたことを考えた。
欠けた部分があるものとして仏像を彫ると、それは技術的にグーンと難しくなる。
そこで、国宝を彫るという当初の目的に合わせて、欠けたままのものを彫った。
次に、そこに差し込み式で欠けた部分を創作して作ってみた。この方法のほうが彫るのが易しい。
復元された日光菩薩(前姿)
これが1700年前のオリジナルの日光菩薩であろうと思う。その結果は、欠けたままの方がスッキリしていて魅力的に見えるから不思議だ。
何事も完全が良いのではないのだと分かった。
ミロのヴィーナスも、腕が欠けているから美しいのかもしれない。
復元された日光菩薩(後姿)