■ネルドリップ珈琲200円也 in新橋
これは、10/30の「おのぼりさん ~パフェ編」で触れた、私がカフェを始めるきっかけの一つとなった、新橋駅地下の喫茶店のお話です。 私も何度か連れて行ってもらった、新橋駅地下にあったその喫茶店は、父が仕事帰りに必ず立ち寄る店でした。
比較的広い店内は、いつも満席に近い状態で、そのお客様のほとんどは、父のように勤め帰りの男性で、いかにも新橋らしい風情をかもし出していました。
父も下戸でしたが、その店は、上の写真のような所で「一杯やってくか!」と出来ないお父さんたちの、溜まり場のような存在でした。
けれども、談笑することを目的としているわけではなく、あくまでも一杯200円のネルドリップ珈琲の美味しさを楽しみに、ただそれだけのために来ているように見えました。
私は、初めてその喫茶店に連れて行ってもらった時、強い衝撃を覚えました。
店内にはなんの飾りもありません。
メニューはどこにもありません。
水も出てきません。
席に座ると、何も注文していないのに、珈琲がすっと出てきます。
テーブルに砂糖はありません。
ミルクも付いてきません。
ある時、隣の人がミルクを頼んだら、なんとマヨネーズの赤い蓋に入ったミルクが出てきました。
ここの常連さんたちは、ブラック好きがほとんどなのでしょう。
誰も皆、ごくごくと珈琲を飲むと、サッと帰っていきます。
言うなれば、座ってはいるけれど、駅構内の「もり」しか出さない「立ち食い蕎麦屋」の喫茶店版みたいな感じ。
私はそこへ行く度に、目を真ん丸くしてそんな光景を見ていました。
さて、私がとても惹かれたのは、その珈琲の淹れ方と味でした。
大きなやぐらにバケツほどのネルを被せ、ポットから細く静かにお湯を注いでいるマスターの姿は、店内の慌しさや、マヨネーズの蓋のミルクのがさつさは微塵も無く、繊細で愛情さえ感じる丁寧な淹れ方で、とても素敵に見えました。
驚くほど回転の早い店ですから、一度にたくさん淹れられた珈琲を、提供前に鍋で温めてはいても、味の衰えは全く感じさせない美味しさでした。
残念なことにその店は、もう無くなってしまったのですが、あの時の風景と珈琲の味は、確かに覚えています。
私が、ネルドリップの珈琲を淹れるカフェを開こう!と決めたのは、この店で受けた衝撃がずっと心に残っていたから、というのが一つの理由でした。
何十年も経っても、「れん」の珈琲が忘れられないと言っていただけるように、私も頑張ろーっと♪