■え~!またナンパされたのお~!?
「まったくもう!あのバカオヤジ!」 その日は八重ちゃんの眼科の通院日でした。
いつものようにタクシーで帰ってきて、ドアを開けるなりそう言ったのです。
ん?
あらあら、随分と穏やかじゃないねえ...。
一体どうしたんだか...。
話を聞くとこうでした。
診察が終わり、近くのスーパーで買い物を済ませ、入り口でタクシーを待っていた八重ちゃん。
すると、一人の男性が近寄って来ました。
「タクシー待ってるのかい?」
「はい。なかなか来ないんです。」
「そうかい。」
するとその男性、さっきよりももっと顔を近づけて、語りだしたのだそうです。
伊達の諸々の話。
自分の趣味の話。
今会ったばかりなのに、いやに馴れ馴れしくペラペラをよくしゃべる人だなあ...と思いながらも、ひょっとしたらまた店のお客様かも…と思ったら、いやな顔も出来ず、「うんうん」と聞いていたのだそうです。
母の上手な相槌に気を良くしたのか、ついにはこんな話までしだしました。
「俺は、酒と煙草と女が大好きなんだ。酒と女はついこの間仕方なく止めたんだけど、煙草は中々止めらんないんだよなあ。」
もうこの頃になったら、さすがの八重ちゃんもムッとしてきたんですって。
だからすかさず、「煙草もお止めになった方がいいですよ!」と突っ込みをいれたのです。
するとその男性は、益々八重ちゃんに親近感が沸いたのか、とんでもない話を始めました。
「去年なんかさあ、老人会で仲良くなった女に、今日は息子が居ないから遊びにいらっしゃいよって誘われてさ、そうかい?ってなもんで行こうとして用意をしていたら、その女から電話が掛かってきて、息子の外出がなくなっちゃったから、やっぱり今日は駄目だわってさ。まったくなあ。なんだよその気にさせといて。」
八重ちゃんの怒りは頂点。
「バカか!このエロオヤジ!」と言いたいのを我慢して、「モテルンデスネ。」とイヤミたっぷりに言ったって。
そしたら真に受けて照れていたそうな。
ようやく来たタクシーに乗り込んだものの、さっき会ったばかりのオヤジのバカ話を、なんで私が聞かなきゃならないのさ!と思ったら、腹立たしいことしきりだったらしく、ドアをあけるなりのあの言葉だったのです。
そのままタクシーが来なかったら、「珈琲でも飲みに行かないかい?」って誘われそうな勢い。
タクシーに乗り込まれなくて良かったわあ。
私は、話を聞いてそう思いました。
「私ってそんなに話しかけて欲しそうな顔をしてるのかしら?」
「そんなことはないでしょう。八重ちゃんはモテルネエ。ところでそのオヤジはいくつなの?」
「75歳になるって言ってたわ。」
「へ~!その年でついこの間、女遊びを止めたって言ったの?」
「そうなのよ。ほんとに気持ち悪い!」
「まあまあ、ところでその人、そんなにモテルホドいい男なの?」
「それがさあ。悔しいことに美男子だったのよ。」
「あ。そう...。」
いやはやなんとも、八重ちゃん、通院日は要注意だわね。
とりあえず、おかしなことにならなくて良かった…(^^;)