■子供が選んでくれた奇跡
今ではすっかり綺麗に治りましたが、娘は生まれた時から学校に上がる位まで、首の付け根辺りに「肥満細胞腫」と呼ばれるものができていました。
それは、小さい子供の指でOKを作った時の、輪っかほどの大きさで、大人になってVネックの服を着たら、その真ん中にペンダントヘッドのように目立つものでした。
どうしてこんなものができたのかしら…?
年頃になったら、可哀想…。
そう思い、私はその頃住んでいた栃木県内の大学病院へ連れて行きました。
授乳時期の娘を抱いて、片道一時間半かけて電車で出掛けて行き、病院でも三時間くらい待たされて、ようやく名前が呼ばれました。
すると、まずインターンのような若い医者に問診を受けました。
次に隣りの診察室へ行くように言われ、先ほどよりも少し格が上らしき医者に、もう一度同じ話をさせられました。
その上、また隣りの診察室へ行くように言われたのです。
思わず、「また同じ説明するんですか?」と問う私に、「次は教授に診ていただきますので」と言うのです。
この時点で、かなり頭にきている私。
それでも仕方なくその教授のいる診察室へ入りました。
すると、そこにいた医者は教授だけではなく、先ほどの二人に加えあと数人の医者がいました。
「なんなのこれ?」
そう言いたいのをグッと堪え、私は娘を教授の方に向けて抱いて座りました。
案の定、同じ説明をさせられたところで、教授が病名を言いました。
「治療をしたら治りますか?」と問う私に、
「治るかもしれないし治らないかもしれない。」と答えるや否や、突然カメラを娘に向けたのです。
「珍しい症例なので、サンプルに写真を撮ります。目鼻には黒帯がかかりますから。」そう言ったのです。
私の怒りは頂点に達しました。
クルッと娘を自分の方に向き直させて抱き締め、激怒して撮影を拒否したのです。
と、突然彼らがドイツ語で喋り出しました。
悔しくて涙が出ました。
患者の人権や、心をないがしろにした彼らの態度に、私は十把一絡で大学病院への不信感を抱いてしまいました。
病気であるというだけで、辛い日々を乗り越えながら生きているのに、病気であるが故に受ける数々の理不尽な扱い…。
強い憤りを感じます。
世の中には、原因不明の病気を抱えている子供たちがたくさんいます。
そういう子を持つ親は、みな自分を責めて苦しみます。
先日いらしたお母さんの息子さんは、ひどいアトピーに苦しめられているのだと話してくれました。
彼女もやはり「自分のせいで…」と悩んだ時期があったと聞きました。
でも、息子さんはお母さんに言いました。
「子供は親を選んで生まれて来るんだよ。僕はお母さんを選んで生まれたんだ。だからお母さんのせいじゃない。」
彼女は、その言葉に救われました。
私も涙が溢れました。
親子の出会いは、実は子供が起こしてくれた奇跡だったのですね。
子供たちに、色々と辛い思いをさせてしまった親として、私も救われた思いがしたのでした。