■サッチモ
サッチモ。 言わずと知れたジャズトランペッター”ルイ・アームストロング”の愛称です。
「れん」のBGMには、いつもジャズがかかっています。
少しですが、CDやレコードが並んでいるのを見て、「ジャズがお好きなのですね。」と、おっしゃるお客様がいるのですが、もちろん好みのジャンルではあるけれど、実は亡父が大好きだったのです。
ですから、CD・レコードは父の遺品です。
その昔、父は2歳違いの叔父と、進駐軍のジャズを聴きに、足しげく通ったのだそうです。
私も二十歳前後の頃に、父と一緒にジャズ喫茶巡りをした思い出があります。
横浜桜木町のある店では、皆が目を瞑り、下を向き、足を鳴らし、首を振る...というスタイルで曲に聴き入っていて、私も無理に真似てみたりしました。
病床に臥してからの父は、目が覚めてから眠るまで、ベッドの中で好きなジャズを聴いてばかりいました。
そして、恐らく余命を悟った時から、CDジャケットの曲のタイトルのところの、特に自分が好きな曲に、マーカーでラインを引くようになったのです。
それは、母と私に「この曲が好きだったんだよ」と、教えてくれているようでした。
そんな作業をしながら、ある日父は母にこう言いました。
「サッチモの”When You're Smiling"が、一番好きだということを忘れないでくれ」と。
それは、「笑っている時の八重子が一番好きだから、自分がいなくなっても、いつも笑っていてくれ...」という、母への愛のメッセージでした。
八重ちゃんは、父の言葉通りにいつも朗らかです。
父の影響でジャズが好きになった八重ちゃんが、中でもサッチモが大好きなのは、言うまでもありません。
現在、家には中身のない”ルイ・アームストロング”のCDケースがあります。
もちろん、タイトルにマーカーでラインの引かれたものです。
CDは、父と一緒に天国へ行きました。
きっとあちらでも、叔父と一緒に、仲良く聴いていることでしょうね。