■夜汽車のお供にボンタンアメと冷凍みかん
ボンタンアメって知っていますか? たぶん生まれも育ちも北海道の方には、馴染みの薄いお菓子だと思います。
ボンタンとは、柑橘類の中で最も大きい部類に入る、とても香ぐわしいミカンの名前です。
ボンタンアメは、この果汁をたっぷり使い水飴・麦芽糖・もち米を主原料に作られた、今で言えば「グミ」のようなお菓子す。
鹿児島のセイカ食品株式会社製造のボンタンアメは、大正15年に開発された歴史の古いお菓子です。
その時、ライバルとしていたのは「森永のミルクキャラメル」。
だから、初めてボンタンアメに出会う消費者が、手に取りやすいということを意識したのか、箱も中身もキャラメルを思わせる形になっています。
一粒口に放り込むと、まず周りを包むオブラートが上あごにピタッとくっつきます。
その後、ボンタンの良い香りが口の中一杯に広がり、甘くてほんのり酸っぱくて、さらにほんのすこ~しだけ皮目の苦味もあり、ほっとする幸せを感じることができます。
食感はというと、原料が水飴ともち米ですから、独特のくちゃくちゃ感がして、これがまた歯にくっつきながらも楽しくて、好きなんですよねー。
聞くところによると、JRのキオスクでは。隠れたロングセラー商品となっているのだそうです。
そして、私がこのボンタンアメと出会ったのも、やはり「国鉄の売店」でした。
今でも100円位で売られている物ですから、当時も子供のお小遣いでは簡単に買える値段ではなかったような記憶があります。
ですから、これを口にできるのは、親と一緒に電車に乗ってお出かけをするときだけでした。
ところで、母の実家は三重県にあります。
私が中学三年の5月に祖母が亡くなるまで、夏休みには母と弟と私の三人で、毎年遊びに行っていました。
その時には、まず小田急線で藤沢に出て、東海道線で大船まで行って、夜汽車に乗り込むのですが、駅が一つ二つと進むにしたがって、ドキドキワクワク感が高まっていったのを覚えています。
その「ドキドキ」感は、「席がちゃんと取れるかな...?」という心配からでした。
だって、自由席なんですもの。
一度、ワンボックス確保できずに(注!もちろん一席は空けますよ)、三人がバラバラになったことがあり、子供の私は、知らないおじさんの隣で一夜を過ごす羽目になり、とても不安で眠れなかったという嫌な思い出があったのです。
そして「ワクワク」感は、それでも大好きな夜汽車に乗れる嬉しさと、藤沢の駅の売店で買ってもらえるボンタンアメと冷凍ミカンが、この上なく楽しみ♪ということからでした。
凍っていないミカンは、甘いほうがだんぜんおいしいと思っているのに、どうして凍ったミカンは酸っぱい方がおいしいと感じるのかしら?
歯にとても沁みるのと酸っぱさとで、一粒一粒口に入れるたびに、梅干のような顔になるのですが、大大好きでした。
とにかく、この絶妙な「柑橘類セット」が、私の「夜汽車の旅」には欠かせない「幸せセット」だったのです。
ただ、子供ですからゆっくり楽しむなんて我慢ができるわけはなく、あっという間に「幸せセット」は無くなってしまうんですけれどね...。