この日、残暑の空気がじっとりしていて、 
汗もかいていて、むらむらと温泉に入りたかった。 
車で蟠渓温泉の町を通りながら、どこかに入ろうと思った。 
どこに入ろうか迷いながら車を走らせているとすぐに町は終わってしまった。 
 
町が終わったとき、とっさに決心した。 
どうせ入るなら、初めてのところに、 
しかも普通なら入らないだろう一番あやしげなところに入ろう! 
Uターンして道を戻り、その温泉の駐車場に入った。 
 
 
 
いつも通り過ぎるだけだった蟠溪温泉の「ひかり温泉」。 
 
やっているのかやっていないのか何だかよく分からない。 
お寺みたいな形の屋根、2階の手すりや外壁の老朽化具合、 
かなり古そうなので建物の中がどうなっているのか、 
お風呂場はどんな有様なのか。不安。 
 
玄関の扉を開いてみた。 
 

 
なんだこの雰囲気は、、、。 
 
ずらりと並んだ狸の置物、こけし、仏像っぽいものやらが 
壁という壁にずらり。 
誰もおらず、やっているのかはまだ分からない。が、 
スリッパがきれいに並んでいるので「どうぞ」という意味を少し感じながら 
「こんにちはー!」と叫んでみた。 
返事はない。 
「すみませーん!」 
何度も叫ぶがシーンとしている。気配がない。 
 
ふと見るとこんな紙が。 


 
「御用の方はお手数ですが館内にてお呼び願います」 
・・・館内にてというのはここでいいのか?それとももっと館内なのか? 
「入浴の方は上の缶に料金を入れて御入浴して下さい。支配人」 
・・・上の缶? 
 
視線を正面から右手に向けると 
 
 

ツッコミたくなるようなものがやたら色々のっかっているが、手前に、 

 

あった。缶だ。なるほど。 
ここに料金を入れて勝手にやってよろしい、ということなのですね? 
大人400円、小学生200円、とある。 
400円を正しく入れて、スリッパを履いて、玄関左手の廊下を自主的に進んでみた。 
 
とても長い廊下が続いている。 
 
 
進んで少し行くと食堂のようなスペースがあって、 
窓が大きく開いていた。 
誰かいるかもしれないと思い、中に入って窓から外を見ると、 
 
 
あ、焼肉してる。 

「すみませーん!」と声をかけると 
その中の一人が「あ、お客さんじゃないの、ほれ!」と言って、 
そう言われたおじさんが立ち上がり、こっちへ来たので 
「日帰り入浴やってますか? お風呂入っていいですか?」 
「やってるよ、入んな。廊下まっすぐ進んで手洗いを左に行って 
突き当たったとこの階段降りたところだから。 
他にもあるから好きなとこに入ってゆっくりしていきなさい」 
 
 
焼肉をしている側には湧き水の池があってニジマスが泳いでいて、 
橋がかかっていて、猫がいた。 
 

橋の向こうには焼肉用の東屋がある。 
 
この宿では 
湯治客はもちろん 
泊まり客も基本的に自炊だそうで、 
夏はここで自主的に焼肉をしていいらしい。 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 
 
素泊まり3000円(自炊できます) 
1泊2食付きの場合は5000円(予約時に確認) 
冬季は暖房料プラス300円 
 
部屋での煙が出る料理は禁止。鍋料理ならOK。 
(外での焼肉可。主に夏期) 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 
 
中に戻り、さっきの食堂からさらに先へ進むと、手洗いを見つけた。懐かしいレトロなタイルの手洗い。手洗いの側の小さなスペースに洗濯機が並んでいる。しかもきれいだ。 
 
その隣、廊下が直角に曲がる突き当たりに炊事室があった。

 
まるで家庭の台所、ホコリがかぶったりなどしていない、生きた台所だ。 
なんでも揃っていて、食材さえ持って来ればすぐになんでも作ることができる状態。 
掃除が行き届いている。急にここで自炊したくなるくらいだ。 
 
ここまで来るともう不安はすっかり消えて、驚きに変わっていた。 
どこも、きちんと「使われている」ことがわかるからだ。 
 
廊下を進んでいくと泊まり部屋が見える。 
これがまた、、、 
 
 
全くもってお茶の間のよう! 
客間ではない。お茶の間。民泊だなこれは! 元祖民泊。 
しかもこのお茶の間感は嫌な感じでは決してなく、いい感じ。しっくり落ち着く感じ。 
押入れには布団が入っていて、自分で上げ下げする。 
 
 
ここは、、、! 
なんだかキラキラしたステージが。今にもキャンペーン歌手が登場しそうな。 
ミニ卓球台もあり、バーもある。 
このバーもびっくりするほど生き生きとしていて、 
ちょっとしたスナックのカウンターのように色々揃っている。 
 
後で聞くと、ここは日帰り客の休憩所で、 
夜は宿泊客などがカラオケなどで楽しむようだ。 
 
さあいよいよ風呂場へと進む。 
 
メインの浴室は5、6段の階段を降りきったところにあるようだが 
階段の手前にも浴室らしきドアが3つ並んでいた。 
 
ここで、玄関の外で会った「湯治に来ている」と言っていた 
上品な感じの年配のおじさんにまた会った。 
「ここの風呂に温泉のことが書いてあるよ」 
と教えてくれたので一緒に「石風呂」とあるドアに入った。 
 
こじんまりした脱衣所があり、 
蟠溪温泉の大まかな歴史や、この温泉の泉質などが書かれた紙が貼ってある。 
 
そして浴室は、 
 
なんともいい感じではないか。結構広い。5、6人はゆうに浸かれそう。 
足を入れてみるとちょうどいい加減だった。 
「入ります?」とおじさんに聞くと 
「うん、カメラ持った人がいなくなったらね」と笑った。 
 
  
こちらがもう一つのドア「ひのき風呂」。 
さっきの石風呂の一角を区切って作ってある。 
一人風呂程度で、ひのきの湯船。 
 
  
三つ目のドアには「家族風呂」とある。 
こじんまりして、なかなか可愛い。 
一人で来た人もここを使って問題なし。 
 
ここから出ると、さっきの石風呂のドアのプレートが 
「使用中です」にひっくり返されていた。 
 
一応混浴だが、誰かが使っていれば他人が入ってこないようになっている。 
上がったらプレートをひっくり返して「次の方どうぞ」に戻す。 
 
これは女性でも安心。 
混浴というより・・・順番浴だ! 
 
 
階段の下、こちらがメインのお風呂。女湯。 
おおお。大きくはないがなかなかきれいで気持ちよさそうじゃないの! 
男湯にも入ってみたが鏡うつしのように対象で、全く同じ造りだ。 
 
さ、お湯に入ってみよう。 
内風呂は2つ。まず四角い方に足を入れてみる。 
 
あつっ! 激、熱い、入れない。 
でも蛇口から源泉が流れ出ていて、たぶん温泉成分が濃いと思われ。 
 
もう一つの半円の湯船はぬるめの丁度いい温度だった。 
なかなかのいい湯だ。湯は透明。柔らかい。入っていると肌がツルツルする。 
窓からの程よい日差し。ひと気が少ないので、 
ゆっくりゆったりした気分になれて、それがとてもいい。 
 
 
壁には簡単な観光マップや、 
「蟠渓ひかり温泉音頭」。これは実際にある音頭なのだろうか? 
わからないので、即興で適当に歌ってみよう。 
もし男湯に誰かがいたら和んでくれること間違いなし。 
 
男女を分ける壁が湯船の底の方で途切れて、つながっている。 
昔はこういう造りがよくあって子供なんかが潜って行き来してたっけ。 
 
洗い場は2箇所ある。蛇口をひねってみたが少し待っても冷たい水しか出なかった。 
まあ、湯船のお湯を使えばいいので問題なし。 
皆、体を洗いに来るというより、温泉に浸かりに来るのだろうな。石鹸はよく泡立った。 
 

そうこうしていると、 
年配の女性が入ってきた。 
 
一緒に湯に浸かりながらお話をした。 
「壮瞥の方に住んでるから近くに温泉はあるんだけどね。ここはお湯がぬるめで私には丁度いいの。透き通っているのも気持ちいいしね。なんだかゆっくりできるのさ。よく来るんだよ」と。 
 
 
飛び込んでみてよかった、なんだか楽しかった、 
予想に反して、ゆったり癒された、 
日帰り温泉入浴なのでした。
 


風呂:脱衣所に鍵付きロッカー、扇風機など 
 
宿泊:基本は自炊で事前に連絡で食事もあり 
自炊:洗濯機、炊事室にはガスコンロ、炊飯器や鍋、食器、調味料など一通りアリ。 
 
外の駐車場のところに足湯、お湯の神様を祀る小さなお宮アリ。 
 
源泉名:H2泉源、組合泉源、国有泉源及び河川泉源の混合 
泉質:ナトリウム・カルシウム塩化物・硫酸塩泉、ph7.5弱アルカリ泉、以上4泉の混合湯 
一部加水あり(源泉温度が高いため) 
 
素泊まり3000円・2食つき5000円 冬季は暖房料300円追加 
日帰り入浴 大人400円、小学生200円 8~20時 無料休憩室4時間まで利用可 
宿泊客は19~21時の間カラオケ2時間無料 


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ひかり温泉
北海道有珠郡 壮瞥町字蟠溪19(蟠溪温泉) 
電話: 0142-65-3000 

 
※記事の内容は取材時の情報に基づいています。(取材2016年)  


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