むしゃなび編集部

洞爺湖の匠・賀上隼敬さんが彫る円空仏

洞爺湖温泉地区の木彫り工房を訪ねた。
温泉街を月浦方面へ向かう坂の途中に、湖を見下ろしてひっそりと建っている。
所狭しと並ぶ作品に囲まれ、ひとり黙々と作業をしているのが、この道約50年の匠・賀上 隼敬(かがみ しゅんけい)さんだ。



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洞爺湖町出身の賀上さんは65歳。
農家の生まれだが、子どもの頃から細かい作業が好きで、学校時代には机を彫って叱られたこともある。
18歳の時に豊浦の木彫り親方に弟子入りした。
当時(昭和40年代)、
木彫りはとても羽振りがよかったという。
「北海道といえば…」の「熊彫り」が非常に売れたのがこの頃。
賀上さんも親方のもとで大量に熊を彫ったそうだ。
その後独立し、洞爺湖温泉街に工房を開いた。開発で立ち退くことになり、現在の場所に移って20年くらいになる。
「売れる・売れないではなく、彫りたいものを彫ること」を信条に、確かな技で様々な作品を制作している。


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それにしても、なんと沢山あるのだろう。鳥、魚、動物、・・・数え切れない量だ。大きさも、かたちも、色合いも、ひとつひとつ皆違っている。
その中に円空を思わせる仏像群を発見した。
ま、まさか本物?


「いやいや(笑)。作品集を見ながら私が彫ったんだよ。」

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 ◆ 円空仏レプリカを彫る。

全国各地を巡り歩き、生涯に膨大な数の仏像を彫ったと言われる江戸時代の仏師・円空。
洞爺湖の観音島にはかつて、円空仏(円空が彫った仏像)が安置されていた。
1666年に円空が豊浦町の小幌洞窟に篭って彫ったうちの一体だと伝えられているが
、現在は有珠善光寺に保管されている。
独特の穏やかな表情と、素朴で時に荒々しい「彫り」が人の心を惹きつけてやまない円空仏。
しかし賀上さんは特に惹かれた、という訳ではなく、遊びで4年ほど前に彫ってみたのがきっかけだそうだ。


★円空と洞爺湖についてはこちらを参照(外部リンク)

ふるさと発見 その3「円空作 聖観音像」 | 伊達市こどもむけホームページ 


17-19世紀 山頂噴火 | 洞爺湖 有珠山 ジオパーク





IMG_5051 円空作品集と賀上さんが彫った円空仏のレプリカ。



賀上さんが彫った円空仏を見てみよう。
優しい顔立ちが愛らしい。怒った顔ですらどこか陽気で、ふと笑いがこみ上げてくる。
眺めるほどに肩の力が抜け、心もゆるむような温かい作品だ。




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よくよく見ると、円空と賀上さんの作風とが混ざり合い、微妙なグラデーションを描いているところがまた面白い。
「特に惹かれた訳でもなく」という賀上さんだが、彫りながら円空の魅力にはまっていったのではないだろうか。そこで聞いてみた。
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円空はどんなひとだったと思いますか?

「とにかく体力があったんじゃないかな。ノコすら持ってたかどうか・・・。
でも2m近くの作品もあるんだよ。どんなことを考えて作っていたんだろうと思うよ。」


IMG_5063やはり木彫り師。普通の愛好家とはコメントが違う!
しかし素っ気ない言葉と反対
に、作業台の上で円空の作品集を見つめる賀上さんの眼差しはとても優しい。

「こんな人だったんじゃないかと思うんだよ。」

と見せてくれたのは、小幌洞窟で仏像を彫る円空像だった。
想像で作ったというが、一心不乱に彫る姿には鬼気迫るものがある。賀上さんの姿とも似ているような気がする。

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◆ 匠の想像力。


多くの受賞歴を持ち、映画やテレビの撮影用に作品を提供したこともある凄腕職人の賀上さん。
受賞歴
1984年「第一回北海道伝統木彫工芸展」優秀賞
1986年「北海道ウッドクラフト展」優秀賞
1987年「第四回北海道伝統木彫工芸展」最優秀賞 ほか多数

動物も魚も生きているように彫ってしまうが、想像力も果てしない。例えば歴史人物シリーズ。IMG_5065千利休、西郷隆盛、ジョージ・ワシントンなど、錚々たる顔ぶれが並ぶ。誰が誰なのか、分かりそうで分からないところが堪らない! 最前列ではムンクが叫んでいる。 超リアルな人物像のほか、メルヘンを感じる作品も・・・。 名称未設定-5

昔は洞爺湖温泉に大勢木彫り職人がいて、高価な作品もどんどん売れ、大変賑やかだったのだそうだ。
現在ではほとんどいなくなってしまったが、職人達は一体どこへ行ったのだろう。 

「飲んでダメになった人が多いね。飲む金はいたましくない(もったいなくない)けど、道具にかける金はいたましがるから。」 


賀上さんは酒に溺れることなく温泉街で生き残ったが、既製品に比べ高額な手作りの作品を求める人が随分減ったと嘆く。
一方で、海外観光客が珍しげに立ち寄ったり、昔からのお客さんが元気な顔を見せに来てくれるのが嬉しいという。
祖母と来店した小学生の女の子が、お小遣いを全部使って、小さな作品を購入していったこともあったそうだ。


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 制作の過程で最も苦労するのは、デザインを考えること。

「材料はみんな違う。無駄のないように、どうやって作るか考えるのは大変。
(材料と)にらめっこして時間が過ぎてゆくことも多いよ。」
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「常に材料との対話。その時傑作だと思っても後から気に入らないことはよくあるね。その逆も。」


今日もひとり、木を彫る。
そんな
賀上さんを円空仏が静かに見守っている。 



 木彫工房 賀上隼敬
木工品卸・直販


北海道虻田郡洞爺湖町洞爺湖温泉213


電話 0142−75−3230


年中無休・値段交渉あり
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