Rietty
別海町の酪農家に生まれ、中学生までは早起きして親の仕事を手伝う毎日。
家族でどこかへ出かけることすら出来ない。
あまりの大変さに、“ 絶対に農家にはなりたくない “ と、サラリーマンの道を選び、営業マンとして忙しい日々を送る圭延さんでした。
一方、地方回りで忙しく、1週間に2日くらいしか家に帰ってこない夫を待つ妻 佳奈さん。
佳奈さんは当時医療事務の仕事をされていました。
そんな尾川夫妻が伊達への移住を決め” 就農する “ と決めたのは13年前のことでした。
農業の道を選んだ理由とは?
「いったい何故、そんなに嫌いだった農業の道を選んだのですか?」
「別海に住んでいた両親はすでに酪農を引退し、今は弟子屈町に住んでいます。そこへ遊びに行った時、家庭菜園を楽しみながらのんびりとスローライフを楽しんでいるのを見た時、なんだかとても良いなあって思えて憧れました。周りでも農的生活を見聞きする機会があり、農業への興味が湧いて来て、転職を考えるようになりました。両親の生活を見て来た上でそう思ったので、できる気がしたんですよね。」
「まあ、圭延さんはよいとして…。佳奈さんはそんな旦那様の提案に抵抗はなかったのですか?」
「私自身も夫の親の姿を見て、土や野菜に触れながら生活する暮らしはいいなあと感じていました。それに農業ならば一緒に仕事ができるので嬉しかったんです。でもね、理想と現実は違っていました 笑 喧嘩もずいぶんしました。」
そもそも農業をやりたくて伊達に来たわけではないという尾川夫妻。
「サラリーマン時代、営業でこの辺りも回っていました。その時も感じたのですが、伊達の気候の良さにはいつも驚かされていました。東の方から車を走らせてくると、伊達市に入った途端晴れているということが良くあります。知り合いの学校の先生も” 退職後に住むなら伊達だ “ という話をよく聞いていました。全道各地を転々とする学校の先生の言葉には信憑性があります。そして、伊達が農業の町であることも知りました。その時に、自分の想いと伊達とが繋がりました。” ここで就農したい! “ と。」
ついに『伊達に移住して農業を仕事にする』と決意した圭延さん。
伊達市の農務課へ向かいました。
ところがその時は、移住も就農もあまり勧められなかったそう。
けれどもそんな反応に怯むことなく、農業についていろいろ調べた圭延さんは〜
「調べれば調べるほどできる気がしていました。でもお金を貯めなければ!と札幌の家を引き払い、まずは洞爺湖温泉街の寮がある職場を探し、二人で8ヶ月間働いてお金を貯めました。いきなり伊達に移住せず、洞爺湖温泉に行ったのは正解でした。そんな僕らの真剣さを知り、伊達市の農務課の方はその後親身になって相談に乗ってくれました。」
さて、ご存知かもしれませんが、農業はなりたいからと言ってすぐに出来るものではありません。
認定新規就農者になるためには、1年間の修行を経なければならないのです。
「研修期間は、土起こし・肥料撒きなどの畑作りに始まり、農業全般一連の作業を親方に付いて学びます。もちろん学ぶ中には「作業」だけでなく、経営についても学ばせていただくわけです。思いだけでは食べていけません。経営が上手くいってこそですからね。」
1年間の修行を終えた尾川夫妻は、牧草地を手に入れました。
“ 自分にも出来るような気がする” という想いをついに現実に繋げました。
尾川農園的マネジメントとは?
尾川農園の経営スタイルは考え抜かれていました。
・一年中収穫できるように、ビニールハウスでのみ栽培をする。
・作る野菜の数を極力絞り込む。
・出面さんは雇わず二人でできる範囲で行う。
・土との対話を常に行う。
「2011年5月から始めたのですが、収益は経験値と共にどんどん上がっていきました。わずか1~2年で “ 大丈夫だ “ と実感しました。安定した生活は思った以上に叶えられ、住宅も購入することができました。ところが3年目に連作障害を出し、そこからは随分と「土」に悩まされました。土のECやPHを頻繁に測り、農家を始めて5年くらいで土の扱いを変えました。連作障害への不安は結局事業開始後9年間くらい続きました。そんなこんなで、理想としていたスローライフとは段々かけ離れていきましたね 笑 」
ビニールハウスの栽培は、天候に左右されることなく収穫することができます。
一年に6~7作もできるというのは、北海道としては画期的なことです。
伊達市では、150種類を超える種類の野菜を作っていますが、特に、冬でも葉物野菜が道の駅に並ぶ地域は他にはあまりありません。
尾川農園では、切れ間なく作物が育ち出荷できるように、ハウス毎・作物毎にタネを蒔く時期や植え付けの時期をずらしながら栽培しているそうです。
「チンゲンサイは1月上旬から11月半ばまでが栽培〜収穫期。そのほとんどを市場に出します。コマツナと水菜は道の駅のみ販売。夏場の2ヶ月は少しだけオクラも作ります。」
「種類をかなり絞り込んでいらっしゃるのですね。」
「はい。手法的にはほとんど修行先の親方のやり方を真似しています。その農家さんはしっかりと経営が上手くいっていらっしゃいますから。やはり生活ができるということが大前提です。だから、人を雇わなくても二人で出来る範囲で、無理をせずに確実に利益を生める方法で営むというスタンスをとっています。野菜の種類を絞り込むというのもその一つです。」
「さきほど連作障害への不安も語っていらっしゃいましたね。全くの素人的質問ですが、同じ野菜ばかりを作るということはそのリスクが高まるということはないのでしょうか?」
「一般にはそう言われています。ですので、『これが良い』と言われる色々なやり方も試しながら、土と肥料のバランスにはとても気を配っています。同時に、僕の中での「土のマネジメント」は、いかに土の良さをいかに壊さないかに尽きると思っています。畑ではない土の中は、多様な微生物たちが絶妙なバランスを保って存在しています。例えば森は何も手を加えなくてもほとんど毎年同じものが生えてきますよね。」
ものすごく納得します。
化学的見地に立ち、いかに地力を壊さないようにするかを考えて土に向かう圭延さんの姿勢に、農業者の日々の努力あってこその美味しい作物なのだと認識新たにしました。
この夏の異常な暑さにより、多くの農家は作物の出来が悪く苦戦を強いられました。
けれども、尾川農園のハウス栽培の葉物へのダメージは少なかったそうです。
ハウス栽培のみを選択したことが功を奏した今年の異常気象だったようです。
「今年はあまり被害を受けませんでしたが、同じ作物でも毎年出来が違います。大切なのは常に化学目線で作物を育て、科学的にマネジメントすることだと思っています。当たり前のことですが、作物は土の栄養を吸い上げています。収穫した後は土に足りなくなった成分を補わなければいけない。ある時から、” 土作り “ という表現が僕の中でしっくりと来なくなりました。土を本来持つ力に戻す、言い換えれば土の良さを壊さないのが一番大切だと考えるようになりました。でもまあ、今でもトライアンドエラーの繰り返しです。研究し続けたいです。」
面白いエピソードを伺いました。
「だて道の駅でのチンゲンサイの販売が終了した11月末、お客様から1本の電話が掛かって来ました。” もうチンゲンサイ出さないの?うちの鳥が尾川さんのチンゲンサイしか食べないのよね “と言われたんです。聞いてすぐは “え? 鳥? “ って、正直釈然としませんでした。でも、冷静に考えたらすごいことだと気づきました。舌が敏感な生き物がうちのチンゲンサイを安全で美味しいと認識して食べてくれているわけですから。嬉しかった。ネタも出来ましたしね笑」
素敵な話です。
鳥の真似をして生で齧りたくなりました。
「最後に今後の展望を聞かせていただけますか?」
「事業を拡大したいとかは全く考えていません。現状をできるだけ維持したい。そして新しい人がどんどん続いて伊達で農業を始めて欲しいと思います。そのためにも何らかの仕組みがあるといいなと思います。現在、新規就農研修者の受け入れ先が高齢化で減少してしまい、新規就農がここ数年止まった状態です。たとえば学生の農業体験受け入れなどもできる仕組みがほしい。体験をきっかけに若い人が農業を職業選択のひとつに考えてくれたら嬉しいです。」
「決して裕福な暮らしをしているわけではありませんが、今まで僕らがしてきた選択は間違っていなかったと自信を持って言えます」と圭延さん。
「農業が好きです。最初に話した “ 農家ならば二人で一緒にできるから嬉しい “と言ったこと、やっぱり優等生みたいで恥ずかしいから書かないでね。」と佳奈さん。
こんな素敵なお話し、書かないわけにはいきません♡
ごちそうさまでした! ありがとうございました〜!
―尾川農園情報―
代表 尾川 圭延
住所 伊達市弄月町75-9
電話 0142-25-2125
Instagram :https://instagram.com/oga_farm0501
編集部のライターとして月に2~3回ほど、皆様のお目にかかることになりましたRiettyです。
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