■大藪画伯が子牛を描く
大藪画伯が東京から暑さを避けて我が家の近くの別荘にやって来たと聞いたので、アトリエを覗いてみたら画伯は片付けの最中だった。 私を見付けた大藪画伯から『昨年、話していた子牛の件だけど、なるべく早く子牛の絵を描きたいので、段取りをしてくれないか?』と頼まれた。
繁殖用の親牛である、黒毛和牛が放牧されていた。
私は仏像彫刻、カメラ、作詞と中途半端だが3つもやっているので、一応は芸術家の端くれで、野田画伯は私のことを『芸術村の村長』と呼んでいる。(酔っていた時に・・・)
そんなことから、私は芸術村の住民の依頼は断れないのだ。
子牛繁殖農家のDさんから『週末に子牛が生まれるので、そうしたら大藪画伯を案内してくれ』と連絡があった。ところが、なかなか生まれない。
痺れを切らして、『生まれなくてもいいから行こう』ということになった。11日の午後から大藪画伯を伴って黄金の牧場に子牛を見に行った。
Dさんは以前は市役所で牧場経営者に繁殖技術の指導をする立場であったが、いまは牧場経営の方に鞍替えしている気の良いオヤジさんだ。
牧場に着いたら、牛舎では遅れていたお産が始まった。
母牛の後部から袋に包まれた子牛が見えている。
間もなく袋が破れて子牛が地面に落ちた。出産である。気持ちが悪い。
母牛はすぐに臍の緒を切り、子牛の体を舐めている。
生まれ落ちたばかりの子牛。
私は生まれて初めて出産に立ち会ったが、感動は無い。
見てはいけないものを見てしまったという感じだ。
大藪画伯は出産した子牛から離れない。
『そろそろスケッチをしたら如何ですか?』との私の言葉で、やっとそこを離れて、生まれて1ヶ月の子牛のスケッチを始めた。
牛舎の中は糞の匂いか、すごく臭い。鼻が曲がりそうだ。
大藪画伯はこの臭い牛舎に2~3日は通うそうだ。私はもう行かない。
(おまけの話)
牛は鼻紋で管理されていて、血統が重要である。
少し前までは紋次郎系統が値段が高かったが、今は『平茂勝』系統が人気のようだ。
子牛は1頭40~60万円で売却されて、岐阜県に運ばれて飛騨牛となる。同じ体型なら器量が良い方が高く売れるそうで、これは人間の女性に似ていて、なんだか可笑しい。