■カニソムリエのいる宿(2)
宿の2日目の朝はいつものように、早く起きてしまった。
せっかく旅に出たのだから、ゆっくり寝ていれば良いものだとは分かっている。
でも長年の習慣は身に沁みついてしまっているので、自然に目が覚める。もっともこの年になると、ズーと「目が覚めない」のも恐ろしい。
朝食の料理は全て地元産の素材を使い、とても豪華だった。
家族は隣の部屋で寝ているので、私は電気を点けて本を読んでいた。
トイレに行きたいが、隣室との襖を開け、その部屋の押し入れの襖を開けないと行けない。
そんなことをしたら音を立ててしまい、2人を起こしてしまう。
仕方ないので我慢する。こんなところが民宿の弱点かもしれない。
大根は浜坂大根、右側のご飯の上に乗った味噌は「セイコガニと味噌を併せた郷土料理」
7時頃になったら、階下より魚を焼く匂いがして来た。
7時半になり階下に降りて、昨夜の個室の食事処に行く。
立派な朝食が用意されていた。昨夜、我々が残してしまったカニも茹でで出ていた。
女将の説明では「お米は照来米(てらぎまい)」と言って、女将の実家からのもの。魚は地元のハタハタ、大根は浜坂大根、皿の味噌はセイコガニと味噌を併せたもので、熱々のご飯に乗せて食べると美味しい」と言っていた。
浜坂漁港の風景
食後は列車までの時間がだいぶあるので、漁港のカニの競りを見に行く。宿のオヤジの車で、数分の距離である。
「帰りは歩いて帰る」と伝え、オヤジには帰ってもらう。
競り場はコンクリートの床にブルーシートを敷き、そこにカニが無造作に置かれている。部外者は私だけで、遠慮しながら写真を撮る。
競りの終ったカニか?、プラスチックの箱に入れられていた。
ここでもカニは裏返しに置かれていて、逃げ出さないようにしてある。
高級なカニは1匹か2匹づつ、海水に浸けて生かしてある。
こんな大量のカニを見たのは、生まれて初めてである。
活気あふれる競りの様子を見て、私まで元気になった。
床一面に置かれた松葉ガニの競り風景。
帰りは宿のオヤジに駅まで送ってもらい観光案内所に立ち寄って、この町に来た理由と宿に満足をしたことを伝えた。係の女性も私の話を聞いて、大喜びだった。
10時28分発の列車に乗って城崎温泉駅で乗り換えとなる。
1時間近くの待ち合わせだ。
そこで町に出て、前回の旅行で食べて美味しかった但馬牛のコロッケを食べる。城崎温泉から京都駅に出て買い物があるという女房に付き合い、
四条通の八坂神社近くの店に行く。
入札の終ったカニに落札者の札が置かれている。
京都駅に戻る時に、私だけ西本願寺前でタクシーを降りる。
ここは私の菩提寺の築地本願寺の本山だから、やはり京都に来たのならご挨拶をしなければと思ったのである。
タクシーの運転手の話では、「新型コロナウィルスの影響で中国人がほとんどいない。どうせ彼らは以前からタクシーに乗らないから関係ない」と言っていた。
そして午後6時08分の新幹線で、「カニグルメ旅」から東京に戻ったのである。
特別なカニなのか?、1匹づつ海水に浸けられている。
(おまけの話)
家族で旅に出ると、かなりの費用が掛かる。特にカニとなると、なおさらである。そこでこの費用をなんとか捻出しようと、株式投資で稼ぐという邪悪なことを考えた。
前回の北陸グルメ旅は、この方法で上手く行った経験があるからだ。
今回も特に確かな理由も無いのに、「今度も上手く行く」と安易に考えていた。
京都駅の駅ビル。
12月に私が見付けた有望そうな2銘柄の株をネットで買った。
すると買って間もなく、期待通りに上がり出した。
これなら旅行に行くまでに旅行費用分くらいは上がると、楽観的に考えた。
ところがこれが「取らぬ狸の皮算用」で、諺というのはよく言ったものだ。少し経ったら思いも掛けず、中国から「新型コロナウィルス」の流行の情報が入った。
四条通の「鍵善」の「くずきり」(1100円)
京都に来たら、必ず立ち寄るお気に入りの店。
当初は「大したことなく収束するだろう」と考えていたが、それは甘かった。患者数も死者数も増え続け、政府は邦人救出のための飛行機を武漢に派遣した。
すると株式市場は敏感に反応して下げ続けていて、売るに売れなくなってしまった。結局は旅行費用どころの話ではなく、「取らぬ狸に金盗られ」状態でカニを食べに行く羽目になってしまったのである。
西本願寺は広大な敷地と、荘厳な建物群から成っている。
雨のせいか、参拝者は少なかった。