巡礼路を考える
さて、今回のサンティアゴ巡礼路の旅は歓喜の丘(Monte do Gozo)で終わりである。 このあと残り2/3の旅はサンセバスティアン、バルセロナ、バレンシアなどを観光したので、その様子はあと数回おまけで紹介したいと思うが、ここで巡礼路というものをあらためて考えてみたいと思う。 というのは、松岡団長の四国遍路を世界遺産にするという並ならぬ熱意に突き動かされ、僕も巡礼路というものを考えてみたくなったからだ。 読者のみなさんも是非とも、より興味をもっていただければうれしい。 サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路 成り立ち バチカン市国、エルサレムとともに、サンティアゴ・デ・コンポステーラはキリスト教の三大聖地とされており、それぞれ旧市街地などが「世界文化遺産」に登録されている。 9世紀にイエスの使徒の一人であったヤコブ(ヨハネの兄弟)の遺骸が発見された場所が、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiagoはスペイン語で聖ヤコブ)であり、聖地となった。 その後カトリックの世界においての11世紀頃から本格的な巡礼地となり、巡礼者を世話する修道院も巡礼路に配置されるようになったらしい。 巡礼者の数の変化 巡礼者の統計は何に基づいているかによるだろうが、この数はサンティアゴ巡礼事務所で巡礼証明書を取得した巡礼者数のものである。 巡礼証明書は徒歩であれば100km以上歩いた者(自転車なら200km以上)が取得資格であり、今回紹介したサリア(Saria)やルーゴ(Lugo)の町などから最低でも歩いてきた人がもらえる。 この数だが、1980年代まではわずかであった巡礼者が年々数を増やし、2017年には30万人を超え2019年には過去最高の347,578人となった。(巡礼事務所資料より) コロナ禍となった2020年には54,144人と激減したが、2021年には178,912人と回復。2022年はかなりまた増える見込み。(ガリシア州政府) 巡礼の最盛期は11-12世紀、50万人の巡礼者という記録もあるようだが、その後ルターの宗教改革や戦争などで衰退する(当然昔は巡礼目的の巡礼者であったわけで今と違うので一緒に比較するのはどうかとは思うが)。 衰退していた巡礼路を再整備 巡礼路にまた人々が戻ってきたのは1980年代ということでかなり最近のことである。 巡礼路に道標が作られて整備されたり、欧州評議会が「最初の欧州文化ルート」宣言をしたり、巡礼パスポートが発行されたことなどが理由となっているようだ。 そして1993年にはガリシア州政府が大きな投資をして巡礼者のためのインフラ整備やサポート体制の確立をしたことによって、最近の巡礼ブームが作られてきた。 これは歩く人の目的も巡礼という宗教目的よりも自然や健康づくりを目的とする観光者が増えてきたという背景もあろう。 巡礼路を観光資源にしようと画策されたわけだ。 つまり、もともと古くからあった歴史的資産を見直し、それを利用し、地域が集客目的で新たに投資をした結果、今の姿があるということになる。 四国遍路を世界遺産に 松岡団長が「四国遍路を世界遺産に」したいという理由は、「世界中から四国に集客する」ためである。 JC時代から地域貢献を考えて、その後地元には「四国遍路」という歴史的資産があることに気付かされ、サンティアゴ巡礼路を利用させてもらいながら、世界にその存在をアピールする活動をこれまで20年以上してきた一本気な男である。 その情熱と行動については本当に頭が下がるわけだが、その目的を遂げるために四国遍路としては何が課題なのだろうか。 四国遍路の課題と取り組み 四国遍路を世界遺産にしていくという松岡団長の思いは、既に四国経済連合会のひとつのテーマにもなっているようである。 この四国経済連が2019年6月にまとめた四国遍路についてのレポートは四国遍路の現状やサンティアゴ巡礼路との比較など、かなり詳細にわたって調べられ考察されていると思う。 このレポートの要旨としては、 ・四国遍路人数は7-8万人/年くらいと試算できるが毎年3.3%ほど減少 ・現状の遍路人数では20年後には半減する可能性もある ・日本人遍路さんは年々減少しているが外国人は増えている ・日本人訪問者はバスやマイカーが主流 ・外国人訪問者は歩き遍路が主流(歩き遍路の17%くらいが外国人) ・日本人と外国人の訪問者の宿ニーズが違う ・サンティアゴ巡礼路に比べると宿代がかなり高い ・世界遺産登録には宿などの整備が不可欠 ・今後はより外国人に頼らざるをえないかも そしてまとめとして、 外国人受け入れ態勢を作っていく方向性で考え、公営巡礼宿(四国版アルベルゲ)やインフォメーションセンターを整備し、また短期間滞在のメニューを作るなど体験型・滞在型遍路に変えていくのはどうか としている。 要するに観光促進による経済活性として、国も含めた自治体の公共投資が絶対に必要であるわけだが、その時にどこにどのように投資していくかを考えていかないといけない。 そこで四国遍路を歩いたこともない小生の考えではあるが、 88ヶ所1200kmの全ルートの中で、「体験型歩き旅」に条件が良い(景観・道・宿泊施設・住民サポートなど)ルート(大体50km〜120km・1泊から5泊くらいまで)をいくつか選定して体験メニューやアプリ(ソフト)開発含めてプロデュースし、そこにまずは投資を集中させてリピーターを作りながら、少しずつルートを増やしていく という作戦はどうかなと思った。 サンティアゴ巡礼路でも50kmや100kmから歩く短い距離の体験ツアーが、より人気であるように、四国でも最初は短い滞在期間で中身の濃い(お接待などで)滞在ができるようにしてリピーターを獲得する作戦が理にかなっているように見える。 それで今回は何番から何番のルート、次回は・・・・という感じでいわゆる「通し打ち」(1回で全部周る)ではなく「区切り打ち」(何回かに分けて周る)で周ってもらう。 実は「歩き遍路」は「贅沢遍路」と言われ、バスやマイカー遍路に比べると格段の費用がかかる。何しろ1200kmあるのだから最低でも40日、遅めだと60日かかる行程。1泊6-7千円の宿泊費に飲食を加えて8-10千円かかると40-50万円かかるわけだ。 だからなんとか「区切り打ち」でもいいので「歩き遍路」で周ってもらうことは肝心でもある。 いずれにせよ四国遍路のような日本固有の歴史資産には、維持をしていく上でも、ハード(寺や道、宿泊所など)やソフト(お接待の文化など)にもっと国としても、その保全にお金をかけていくべきではないか。それがひいては日本人も含めた観光客を増やし、持続可能な文化資源の確保につながるはずだと思うからである。 四国遍路の来訪者(巡礼者)はコロナ禍以前でも7-8万人くらいと見られているが、今後外国人の歩き旅ニーズについては期待できるので、うまくやればきっと観光客も増やせよう。 多分コロナ禍で止まっていたであろうこの四国遍路の対策について、これから新しい展開が始まることを切に祈るのである。 俳人 黛まどかがサンティアゴ巡礼路を歩く ついでにこちらの映画を紹介したい。 サンティアゴ巡礼路を歩く日本、ブラジル、オランダからの巡礼者たちをドキュメンタリー風にした映画。 それぞれがそれぞれの思いをもって巡礼路を歩く様子が見られる。 黛まどかが出る部分は日本語か英語になっているのでそこだけ飛ばし飛ばし見ても興味深い内容となっているのでオススメ。 そして彼女の書いた「星の旅人」という本のあとがきには カミーノ(道)は、誰にでも拓かれています。あなたがこの道を歩いてみたいと思った日から、道は終点サンティアゴへと向かって伸びてゆきます。あなたの心が、この道の出発地なのです。どうか黄色い矢印(道標)に従って歩き継いでください。 という文があった。 ピンときたらあなたも歩いたらいかが? 参照資料 日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会 サンティアゴ巡礼路公式サイト(ガリシア州政府) 巡礼事務所 新時代における遍路受入態勢のあり方(四国経済連合会レポート) さあ、次回から数回に分けてこのあとの観光の様子と我々の後日談としよう。 【第6日目から7日目】ア・コルーニャからビルバオまで