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(続)あいつとの32年間の空白を埋めるために(9)

次の日は朝7時くらいに目が覚めた。
マドリードの冬の朝はとても暗い。
日の出の時間がとても遅いのだ。

そしてアパートの外を見ると
中庭には雨が降っているのが見えた。
今日はずっと雨模様か。

せっかく初めてヨーロッパに来たのだから
スペイン王宮くらいは見ていくかと
ネットで調べたが、
予約をとったり、高かったりで面倒だった。

それでまあ歩きながら病院に向かって
途中の道すがら、何かあれば見ていこうと
歩いて1時間半くらいの距離を
雨の中、歩き始めた。


教会のステンドガラス

途中2つの教会に立ち寄った。

ヨーロッパといえばやはり教会に行ってみたかった。

僕らのような非キリスト教徒であっても
誰でもいつでも立ち入ることができるようだ。

荘厳なドアを開いて入ると
外の雑踏の賑やかさが遮断され、
高い屋根のそばにあるステンドグラスからの光が
館内を照らす。

別世界だ。

ここに入れば、誰でも何か神がかった
厳かな雰囲気に飲まれるだろう。

こうした雰囲気の中で、
人々は神に祈りを捧げてきたわけだ。

そしてそこには多分
善と悪、生と死、罪や赦しというテーマがあり、
人は正しい答えを探しては
なんか救われた気分になってまた外の世界で
がんばれるのだろうか。

イスタンブールのモスクも
マドリードの教会も
宗教は違えど、雰囲気は同じと思った。

その後、
スペイン王宮の周りをうろつき、
外から写真を撮ったりしていると、
スマホにユーイチくんから連絡がはいってきた。

「今どこですか?」

ユーイチくんによると、弟の状況はいよいよ
痛みが増してきたようで
できれば早く来て欲しいということだった。

連絡を受けた僕はカミさんと一緒に
タクシーをみつけるべく、雨の中走った。

なんとかタクシーに乗って病院にかけつけると
弟は昨日と同じようにベッドに座っていた。
意識はまだしっかりして話もできたが、
少し痛みからか辛そうだった。

そのうち主治医が麻酔担当とともに入室してきた。
スペイン語で弟としばし会話したあと、
最後に弟と握手を交わした。

この主治医はずっとマドリードに来てから
彼のことを診てきたドクターで、
弟によるといいやつらしい。

彼は僕が兄だと説明を受けると
僕に握手をしてきた。

ああ、いよいよなんだな。

僕はそう思った。


(つづく)

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犬と暮らしとカヤックと

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豊浦町でワンコたちと暮らし、たまに海で遊ぶ日常をつづります。

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