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あの頃は確かに熱かった(最終回)

前回までのあらすじ

70年代80年代は中学生活もアイドルたちも熱かった。
そんな中、僕らのキャンディーズが突然解散宣言をした
僕らスーパーレクはなんとランちゃんの突撃インタビューを企画した。
完璧に準備していざ実行当日を迎えたが・・・

その日3人は朝早くから黄色い車両の総武線に乗り、千葉を出てランちゃんの実家がある駅(当時の国鉄東中野駅だったと思う)に向かった。
これから本当にランちゃんに会えるのかと思うと、車中みんなドキドキワクワクであったに違いない。
握手はしてくれるだろうか、とか。
「よかったら夕食も一緒にどうぞ」なんて言われたら帰りが遅くなるけど、そのときはどうしようとか。
ミキちゃんとスーちゃんも一緒にいないかなとか、いらぬ妄想が各々の頭の中を巡っていたのは想像に難くない。

そんな妄想をしていたためか、意外と早く目的の駅に着いた。
ランちゃんの実家は駅から歩いて10分くらいのはずだった。

疑わしかったジョージの情報を頼りに、3人でそれらしき家を探していると、アパートのような構えの家の前に10人くらいの人だかりが見えた。あれはランちゃんの熱狂ファンたちに違いない。
彼らは車がやっとすれ違えるくらいの狭い道を挟んで、ランちゃんの実家の反対側の家の生垣の下に静かに座り込んでいた。
「間違いない。あれがランちゃんの家だ」ジョージの情報は正しかった。

自分たちだけだとばかりだと思っていた僕らはこの光景にかなり面食らったが、しょうがないのでこの人たちと一緒にランちゃんを待つことにした。


待つこと3、4時間。何も動きがなかった。
だんだんと時間がなくなっていく。

すると勝手口と思われるドアがいきなり開いた。

「ランちゃんだ!」
僕らはにわかに色めき立った。
突然だったのでみんなあたふたしていた。

そしたらジョージが「写真!写真!」というので、僕は慌ててカメラを構えてドアの方に向けた。

すると家から顔を出したのはランちゃんではなくて、おばさんだった。

おばさんはドアを開けて半分顔を出すと、道路を挟んで陣取っている我々若い衆を数えるようにひととおりサッと見渡してから苦笑をし、すぐに家の中に引っ込んでいった。

「なんだ。ランちゃんじゃないじゃん」
「誰だろう? あの人」

僕らはかなりがっかりしながらも、もうしばらく待つことにした。しかし遠出してきた中二の小僧どもに残された時間は少なくなっていた。
それからまもなくして、僕らは何の変化も起きない家を失意のうちにあとにした。インタビューどころか本人を一目でも見ることさえできなかった。
あの予行演習はなんだったのか。妄想が実に馬鹿げていたことに初めて気づき、帰りの電車の中では誰もしゃべらなかった。

その後1週間くらい経った頃、僕らのクラスの壁にはスーパーレクの新聞が貼られ、クラスメートたちが群がっていた。

そこにはキャンディーズ解散の説明があり、そして果敢に挑戦をした今回のインタビュー作戦があえなく失敗に終わったことが書かれていた。

ただ紙面には取材の成果として、写真が一枚だけ誇らしげに貼られていた。それは勝手口のドアを閉める人の手元だけがかろうじて写っている写真であった。

写真には「ドアを閉めるランちゃんのお母さんの手」と説明がついていた。

あの時代を思い出すと今でも胸が熱くなる。

あの頃は確かに熱かったんだ。

(このシリーズは終わり)

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豊浦町でワンコたちと暮らし、たまに海で遊ぶ日常をつづります。

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