心の伊達市民 第一号
「マグロ丼」と「鰯」
マンションのデジカメクラブのメンバーは現在7人で、1人の女性会員を除けばみんなジジイである。
自分のことは棚に上げて彼らを見ていると、高齢者の問題が浮き彫りになる。
私より6歳も年上のXさんは肝臓病で1年近くも入院をしていた。
退院後は気力が無くなり、介護を受けて寝てばかりいる。
体の弱い奥さんの面倒を見られないので、彼は奥さんを介護施設に預けたままになっている。
朝潮運河に面したシーサイドテラスの店(右)
彼の話では朝起きてもやることが無いと、起きる気力が萎えて来るそうだ。
現役の時は大手企業でバリバリの営業マンだったらしいのが、こうなってしまった。
私は時々、彼をお茶に誘い、『朝起きたら、着替えろ』、『外に出て太陽を浴びろ』、『毎日、少しでも歩け』と年長者に向って注意している。
「色々と言うのは迷惑かな?」と思っていたら、ある時、彼からメールが来た。
元は漁船の船着き場では?
私は『私のことは構わないでくれ!』と言われるのかと思った。
ところがメールには『お心使い本当に感謝です。これからは何が何でも頑張らないと、受け止めております』とあって安心した。
そして3日前は1838歩、2日前は5222歩、1日前は3822歩を歩いたそうだ。
彼の姿はいずれ来る私の数年先の姿を見るようで、「もっとシャキッとしていたい」という私の願望がXさんへの注意となっていたのかもしれない。
店名は長く「マグロ卸のマグロ丼の店」である。
Xさんのメールに登場するYさんは私より1歳下で、体が細く体重は40キロ台である。
ある時、両手に荷物を持って歩いていて、躓いて転んだ。そして両手首を骨折して入院していた。
私は彼と歩く時には『もっと足を上げて歩いた方が良い。引きずり歩きは躓くよ』と言っていたのが現実となってしまった。
彼の奥さんは2年前に風呂場の事故で亡くなっている。
今は1人住まいで自炊をしているが、倹約家のYさんは栄養的に問題のある食生活のように思う。
店内は目いっぱい「ウォーターフロント感」を出している。
そのYさんから私にメールが送られて来た。
『Xさんの調子の良い時に、運河沿いに見える冷凍倉庫会社の経営する食堂で「マグロ丼」を一緒に食べませんか? Xさんには了承を得ています』とあった。
折角のお誘いなので生魚はあまり好まない私だが、それは言わずに2人に付き合うことにした。
そしてある日の12時45分に、マンションのロビーで待ち合わせた。
マグロ丼の向こう側はオリンピック村
なにしろ2人の歩くのは遅い。XさんもYさんも、杖を撞いている。
たかだか500メートルくらいの距離の店まで、ヨロヨロと歩いて行った。
時間はランチが終った午後1時だというのに、広い店内はかなりお客が入っている。
この店は豊洲埠頭にある水産会社の経営で、マグロの解体で発生する切り落し部分を使い、マグロ丼を600円という驚きの値段で提供しているのが人気らしい。
これで600円(税込み)が安いと思う。
自販機でマグロ丼を買って席に着く。しばらくするとマイクでチケット番号を呼ばれるので、キッチンまで取りに行く。目の前の朝潮運河と、その先のオリンピック村を見ながらマグロ丼を食べる。
安普請の掘立小屋のような店だが、爽やかな風を受けて気持ちが良い。
これは洒落た言い方をすれば、ウォーターフロントのシーフード・レストランである。
『最近は食欲が湧かない』と言っていたXさんが、全部平らげたのを見て「良かった」と思った。
窓から身を乗り出すと、レインボーブリッジが見える。
(おまけの話)
「マグロ丼」を食べた後に、2人と別れた。
私は元気なので、「豊洲ぐるり公園」のでも行ってみようかと考えた。
公園までは私の早足で15分くらいだが、そこまで行くのに2つの運河を渡らなければならない。
運河を横切る橋を渡る時には、長い上り坂になる。これが結構、辛いのである。
下を中型船でも通過できるように考えての設計だろう。
晴海運河で群れを成す「鰯」の大群(右は豊洲大橋)
最初の橋は朝潮運河に架かっていて、次の長い豊洲大橋は晴海運河を渡るのである。
やっとの思いで橋の中間を過ぎると、下り坂になりヤレヤレとなる。
渡り切ったところで、階段を降りて公園のテラスに出る。
橋の下の日陰になるところで、子供達がハゼ釣りをしている。
私はレインボーブリッジの方へ歩いて行き、「クラゲ」がいないかと目を凝らす。
鰯の大群を撮影するのは難しい(かなり加工した写真)
その時、水面近くに「鰯(いわし)」らしい魚の群れが泳いでいるのが見えた。
運河を通過する船の波を受けて、魚の群れがサーフィンをしているかのように見える。
私はカメラの焦点を魚に合わすが、なかなか上手く行かない。
なにしろ魚は水の中では自由だから、一斉に潜ったりする。
思い掛けない光景に出会い、暑さも疲れも飛んだ。
ズームで運良く写っていた鰯。
北海道伊達市に2003年夏より毎年季節移住に来ていた東京出身のH氏。夏の間の3ヵ月間をトーヤレイクヒルG.C.のコテージに滞在していたが、ゴルフ場の閉鎖で滞在先を失う。それ以降は行く先が無く、都心で徘徊の毎日。
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