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あいつとの32年間の空白を埋めるために(2)

(2023年3月執筆)

その後僕は父の期待を裏切り、
自分に正直に生きる道を選ぶと、
苦労する中で自分の視野がいかに狭かったかに気付かされた。

するとあいつがどうにも可哀想に思えてきた。
あの父親のもとで自分らしく生きることを否定され続けたあいつは、
異国の地に逃げて未だ彷徨っていたからだ。

また以前の自分のことを思うと、
なんか自分のことが嫌になった。
あいつと父の間に入って助けるどころか、
父と一緒になって批判していたのだから。

あいつが日本を出てから5、6年くらい経った頃、
仕事でアメリカに行く機会に久々にシアトルで会えた。
あいつはホームレスになっていた。
歯を痛めてひどく腫らしていたのに、
金がなくて治療もできないほどの状況だった。
僕はわずかばかりのお金をやったものだが、
このままじゃダメだなと思った。

しかし帰国を勧めても、
「自分には帰るところがない」
「アメリカの方が自分に合っている」
「いつかミュージシャンで成功するんだ」と
相変わらず強情で、聞く耳を持たなかった。
いつもどこかで現実逃避しているあいつを不憫に思いながらも、
その時僕は心の中で静かに応援することしかできなかった。

(つづく)


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