心の伊達市民 第一号

「国語辞典」で笑うとは?

最近のことだが、面白い本を読んだ。題名は「新解さんの謎」である。
これは古い本で1988年が初版で、著者は「老人力」で一世を風靡した赤瀬川原平である。
しかも本の内容は国語辞典に付いて書いているのだが、それがこれほど面白いとは思わなかった。
この本で取上げられているのは、「新明解国語辞典」である。



「新解さんの謎」★★★


普通に考えれば、国語辞典に付いての解説の本など、書く人もいないし売れないだろう。
辞典・辞書は「必要な時に調べる」だけで、殆どの場合、読まれないページの方が多い。
それを辞書の中から単語を取り上げて、新明解国語辞典はどのように説明しているかを書いているのであるが、それが可笑しい。次に私なりに、可笑しい箇所をいくつか取り出してみた。



「100万回死んだねこ」★


【ばか】・・・「記憶力、理解力がの鈍さが常識を越える様子。またそういう人」、「人をののしる時に最も普通に使う語。公の席で使うと刺激が強過ぎることがある」。例「バカバカ」女性用語で相手に甘える時の言い方」。

赤瀬川『こんな親切な辞書があるだろうか。親切というよりおせっかいというか、犯罪を未然に防ごうという心づかいは親切であろう。人生の間違いを未然に防ごうとして忠告してくれる。親切国語辞典だ』。



「星条旗の聞こえない部屋」★★


【ぼさっと】・・・「しなければならないことを忘れていたり、仲間から1人取り残されたたりして、しまらないことを表す。例「駅から花屋に出る四つ角に交番があるのだが、管内の出来事には鈍感な警官がぼさっと立っているだけだった」。
赤瀬川『これはもう文学ですね。ぼさっとの一言に、これだけの物語があらわれる』。



「Our Friend」★★


【白桃】、【鴨】、【いしなぎ】、【あこうだい】・・・説明の後に「美味しい・うまい」。
赤瀬川『うまいというのは個人的な問題である。私は里芋の煮物を最高にうまいと思う。でも家内は、「あんなもの」と言っている。だから我が家では辞典など出来ない。辞典というのは言葉の多数決で発表するもの、というのが常識。でもそんな選挙結果など待たずに、自分の投票内容をドンドン発表してしまう。新解さんはそういう人だ』。



「皮膚を売った男」★★


【新入り】・・・「新しく・仲間(刑務所・留置場など)に入ること。また、入った人」
赤瀬川『ほら完全にプロである。いまは辞典を作っているけど、辞典掲載の森羅万象を知るために、世の中のあらゆるところをくぐり抜けてきている。いままでにどれだけの罪を重ねてきたことだろう。いや断定してはいけないが、そんなことは人に言えないという二重の苦労がうかがえる』。



「アンテベラム」★★


【凡人】・・・「自らを高める努力を怠ったり、功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。マイホーム主義から脱することの出来ない大多数の庶民の意に用いられる】

赤瀬川『まあ、それはそうだけど、こうまで言われてしまうと、その説明が間違っているわけじゃないし、何だかしみじみしてしまう』。
こんな調子で新明解国語辞典を滅多切りするので、面白いし可笑しい。
新明解国語辞典の方も、反論もせずに改訂版を出し続けている。お勧めの1冊である。



「アイス・ロード」★


(おまけの話)
本には「余白」がある。余白と改行の無い本は読み難い。
この本では「余白は品が良い」と、面白いことを指摘している。

『壁いっぱいに余白無くメニューを貼る、テーブルとテーブルの間が狭い、折込広告に余白が無い、などは「安売り」が殆どで、品に重きを置いていない』。「なるほどー」と思う。
余白と品は相関関係があることが分かる。



冬の夕陽は落ちるのが早い。


本の最後には「あとがき」があり、その後に「奥付」があり、その後ろになにも無い白紙部分がある。
これは「紙の折りの関係で余ってしまった白紙部分」だそうだ。
ケチな会社はここに自社の広告を入れる。しかし、なにも無い余白は大事である。
「人生の余白を考えるとき、それまでの人生に凝縮された時間があっても余白ということになる」と、これも納得である。



いまの時期は富士山よりかなり左側に太陽が沈む。


よく「自叙伝」を書く人がいる。私には年長の古くからの知り合いで、大変な苦労をして一応の成功者となった人がいた。ある時、私は「自叙伝でも書いたら」と言ったら、本当に書いてその自叙伝をもらった。
しかし読んでみたら自慢話ばかりで途中で読むのを止めたことがある。

自叙伝も本であるから、「題名」、「目次」、「本文」、「あとがき」、「余白」がある。
私は自叙伝など書く気は全く無いが、今は人生の余白部分を生きているのかもしれないと思っている。



太陽がすっかり沈んでしまった光景。

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北海道伊達市に2003年夏より毎年季節移住に来ていた東京出身のH氏。夏の間の3ヵ月間をトーヤレイクヒルG.C.のコテージに滞在していたが、ゴルフ場の閉鎖で滞在先を失う。それ以降は行く先が無く、都心で徘徊の毎日。

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