心の伊達市民 第一号
オヤジの居場所
本当は「男の居どころ」というタイトルにしたかったが、後期高齢者が「男」でもないだろうと思って止めた。そうかといって「ジジイの居場所」も、なんだか寂しいので止めた。
ゴルフをしていた時の大先輩の言うことを聞いて、私は「年をとったら、なるべく女房との接触時間を少なくする」を守って生活している。その大先輩は私より20歳も年上だったので、もうこの世にはいないと思う。
家から豊洲ぐるり公園の途中の右側に「オリンピック村」がある。
用事があって出掛ける日は、なんとなく気持ちが晴れ晴れしている。
大した用事ではないが、「朝食のパンを買いに行く」、「図書館に本を借りに行く」、「コーヒー豆を買いに行く」、「ビックカメラに必要なものを買いに行く」、「イベントを見に行く」、「女房に頼まれた用事をしに行く」、「銀行に現金を下しに行く」などである。
コロナのせいで「映画を見に行く」、「友人達と集まる」、「旅行に行く」、「お祭りの写真を撮りに行く」などは出来なくなっている。
オリンピック村の先の豊洲大橋からの光景。
それでも何も無い日でも、私は家を出る。
そしてどこかでランチを食べる。その後にカフェに入り、本を読む。
「どこかに行く」といっても、そうそうは行くところが無い。
ランチはコロナ感染を避ける為になるべくカウンター席の店に入り、4人掛けの席の店には行かない。そうなると、もうそうそうは行く店が無い。
豊洲大橋を下って行くと、右手に豊洲市場が見える。
ある時、ハッと気が付いた。
「弁当を買って、どこかで食べればいいんだ」。
公園のベンチもあるが、ベンチはどういうわけか日影が少ない。
そして思い出した。
豊洲ぐるり公園の豊洲大橋の下なら、階段状のベンチがあるし日影である。
平日なら、そこに来ている人もあまりいない。
豊洲大橋の下は広くて、涼しい。
早速、家から魔法瓶にお茶を入れ、コンビニで弁当を買って豊洲大橋の下に行った。
橋の下というのは、通常はホームレスの住処になっている。
でもここは近くにバーベキュー場所があるが、管理がしっかりしているのでアルミ缶を集められない。だからこの場所でホームレスを見たことが無い。
橋の下というのは風通しが良いので、29度という気温の日なのに、とても涼しい。
豊洲大橋の下には階段状のベンチがある。
目の前のテラスの歩道をジョギングして行く人が、何人も通り過ぎていく。
男性は少なく、多くは主婦らしき若い女性達である。
亭主を会社に送り出したか、家で在宅ワークなのかもしれない。そんな光景を見て前日のネット情報を思い出して、1人で笑ってしまった。
それは毎年行われる第一生命「サラリーマン川柳」である。
今年の1位となった作品は「会社へは 来るなと上司 行けと妻」で、今の私の見ている光景だ。
目の前は「晴海運河」で小さな漁船が走っているのが見えた。
ベンチの端に若夫婦が来て、お弁当を広げている。
しばらくしたら反対側に太った中年男が来て、ゴロンと横になった。まるで「トド」みたいだ。遠くでは何を釣るのか、オヤジが竿を垂れている。
ここではコロナ騒動も関係なく、みんな思い思いの行動をしている。
夫々の人達の「自分の居場所なんだなー」と感じて、可笑しくなった。
私もコンビニ弁当を食べ、本を読み、しばらく時間を潰してから家に戻ったのである。やっと「オヤジの居場所」を見付けた日だった。
私はベンチに腰かけて、レインボーブリッジを見る。
(おまけの話)
バスに乗車中にスマホに電話が入った。画面を見たら、大学時代の友人のXさんだった。でもバスの中なので出ることが出来ず電話を切ったが、それでもまた電話が鳴る。
仕方ないので受信拒否にして、ショートメールで「バスに乗っているので、電話に出られない」と送信した。用事を済ませてから電話をしたが、今度は相手が出ない。
帰り道の築地大橋から我が家方面を見る。
そこで今度は携帯メールに「用件は何だったのですか?」と入れて送信した。翌日になって2回も電話したが、「車の運転中か、電話に出られない場所にいます」とアナウンスが流れた。もしかして「コロナに感染して入院する」という知らせか、「持病が悪化して入院する」という知らせではないかと思っていた。そしてそのことは忘れていた。
オリンピック村の入口交差点から、晴海方面を見る。
彼は奥さんと家庭内別居状態なので、ロクな食事もしていはずで、そう思ったのだった。翌日になり、「豊洲ぐるり公園」で休んでいたら、電話が来た。
用件は他の友人のYさんが、脊髄から髄液が漏れ出して手術・入院するという知らせだった。
「ショートメールとドコモメールは見たのか?」の私の問いに、なんだかハッキリ答えず、「携帯の具合が悪い」と言っていた。そういえば今までに1回もショートメールにも、ドコモメールにも返信が無く電話連絡してくるところをみると、彼はメールが出来ないのかもしれないとこの時に理解したのであった。
オリンピック村の入口交差点から我が家方面を見る(手前左がオリンピック村)
北海道伊達市に2003年夏より毎年季節移住に来ていた東京出身のH氏。夏の間の3ヵ月間をトーヤレイクヒルG.C.のコテージに滞在していたが、ゴルフ場の閉鎖で滞在先を失う。それ以降は行く先が無く、都心で徘徊の毎日。
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