心の伊達市民 第一号

エンドロールにはまだ早い 

緊急事態宣言が発出されてから、映画館は閉館になっていた。
私は映画好きなので、これには異議を唱えたかった。
映画館というのは静かにスクリーンに向って映画を見ているだけで、話をする人はいない。観劇が許されて、映画が許されない理由を説明した政府も専門家と称する人もいない。



「ファーザー」★★★


6月1日に政府も「映画館を休ますのはまずいのでは?」と思ったのか、緊急事態宣言が延長されたがやっと映画館の営業が始まった。そこで私はすぐに映画館に向かった。
ところが映画の配給会社は急のことで準備が整わないのか、話題作は上映しなかった。6月後半になって、やっと私の見たい映画が公開されるようになった。



「スーパーノヴァ」★★★


「ファーザー」、「スーパーノヴァ」、「命の停車場」を立て続けに見た。
見た後で気が付いたが、この3本とも人生の終盤の物語である。
「ファーザー」はアンソニー・ホプキンスが認知症の父親を演じる役で、見ていて身につまされた。

私が何より恐れているのが「認知症」なのだから・・・。
映画では現実と過去と想像が入り混じり、父親は混乱する。
認知症というのは「こうなのか」と、自分のことに当て嵌めてかなり衝撃を受けた。



「命の停車場」★★★


次に見た「スーパーノヴァ」はピアニストのサムと、作家のタスカーの物語だ。
20年来のパートナーであるが、タスカーの認知症が進んで行く。


タスカーはまだ自分で自分をコントロール出来る内に、密かに自決をしようとしている。
それを知ってしまったサムの苦しみと、タスカーの強い意志の物語である。
ここでも認知症がテーマで、私はまた「認知症だけにはなりたくない」と思ったのである。



「ゴジラ対コング」★★


その翌日に見たのが、日本映画の「命の停車場」である。
吉永小百合の主演で、彼女は故郷の小さな診療所の在宅医療の医師を演じている。

私は滅多に日本映画を見ない。
それは面白い映画が無いのと、俳優がボソボソと話すセリフがよく分からないからである。外国映画は必ず字幕が出るので、日本映画よりかえって良く分る。



「ライトハウス」★★


驚くのは吉永小百合の若さである。
彼女は1945年3月13日の生まれというから、私と誕生月が同じなので丁度、私より3歳若い。 ・・ということは、彼女は現在、76歳なのである。

父親役の田中泯も同じ1945年生まれなので、彼女は同じ年齢で娘役をやっているのであるから驚く。他には西田敏行、泉谷しげるなどの癖のある俳優が良い演技をしている。



「83歳のやさしいスパイ」★★


この後も堰を切ったように「ゴジラvs コング」、「ライトハウス」、「83歳のやさしいスパイ」、「プロミシング・ヤングウーマン」と4本も見た。これで約1ヶ月間に7本の映画を見たのである。

期待外れの映画もあった。でもそれは構わない。
「映画館で映画を見る」ということが私には必要なことで、これは栄養剤のようなものかもしれない。でもテレビの小さな画面で映画を見ることは好きではないので、殆ど見たことが無い。 「映画って、いいですねー!」



「プロミシング ヤング・ウーマン」★


(おまけの話)
最初の3本の映画は「人生の終末」の話であった。
たまたま続けて見たのではあったが、終末が近付いて来ている私には大いに勉強になった。誰でも自分の終末を想像するのは難しい。でも「潔く逝きたい」と私は願っている。

ボケて何も分からず、その上、女房や世間に迷惑は掛けたくない。
そこで私はかなり前から「日本尊厳死協会」の会員になっていて、会員証は健康保険証と一緒に入れて、いつも持ち歩いている。



日本尊厳死協会の季刊誌「Living Will」


万が一、出先で事故に遭ったり、急病で倒れた時に、無駄な治療をして欲しくないからである。意識も無く、体に何本もチューブを入れられ、場合によっては「胃ろう」なんかされたくない。

マンションの友人が、両手首の骨折で入院した時の話を聞いて怖くなった。
なにしろ両手が使えないから「オムツ」をした。そして排泄物の始末を看護師にしてもった。私はこれには耐えられない。



40年の付き合いの部下を亡くした倉本聰氏の慟哭


今回見た映画ではオムツをする話は出て来ない。
やはり映画は綺麗ごとで現実とは違うので、現実を生きる私は尊厳死協会に入って良かったと思っている。
協会から送られて来る季刊誌の、今回の記事に脚本家の倉本聰氏が書いていた話が心に響いた。誰でも年を取れば、病気の先には「死」がある。私はその準備も怠りなくしている。

既に築地本願寺に、納骨堂の権利を購入してある。すると毎月、月刊誌の「TSUKIJI」が送られて来る。そこには入れ替わり立ち代りに僧侶のありがたいお話が出ているが、それは私にはあまり実感が湧かない。出来ることなら私も映画のように、綺麗ごとでエンドロールを迎えたい。



築地本願寺の月刊誌「TSUKIJI」

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北海道伊達市に2003年夏より毎年季節移住に来ていた東京出身のH氏。夏の間の3ヵ月間をトーヤレイクヒルG.C.のコテージに滞在していたが、ゴルフ場の閉鎖で滞在先を失う。それ以降は行く先が無く、都心で徘徊の毎日。

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