心の伊達市民 第一号
月刊誌「HANADA」に毎月掲載されている、「早稲田古本劇場」という2ページのエッセイ風日記がある。硬い本にしてはこのページは、可笑しい話が載るので楽しみにしている。実在する店なので、いつか行ってみようと思っていた。
古本を買うのではなく、ただ野次馬的に見に行くだけである。
暇人の特権はこんなところにもあり、「今日は行くところが無いなー」というような時のために手帳に書いて確保している。
ある時、「早稲田古本劇場」が本になっていることを知った。
図書館で調べたら、蔵書にあったので借りて来た。
なんとも「ゆるい」本を読んだ。
著者は向井透史で、早稲田で古本屋「古書現世」を経営している2代目である。
早稲田大学の近くに店があるようで、大学が休みになると店に客が来ない。
そんな日々を日記風エッセイで、小さな文字で書いた374ページの本である。
まあほとんどが愚痴話であるが、その「ゆるさ」が癒される変な本である。
内容を著作権に触れない程度で、またある意味では宣伝にもなるから少し書くと、
『全くお客が来ないので、売上が無く、レジで100円と空の売上げを打つ』、『暇なので居眠りをして目覚めたら、古本代の500円が目の前に置いてあった』、
『開店してすぐに老婦人が800円の本を買ってくれた。「支払いはこれで」とザクロを置いて出て行きそうになった。冗談かと思ったら、本気だった。勘弁して下さいよ』。
『早稲田大学内での古本市で、チアガールが気になりレジ打ちをしながらチラチラ見ていたら、1000円を100万円と売ってしまい、客さまに怒られた』、『某大学から電話。先日、当大学の先生がそちらで「神武天皇」という本を購入したのですが、納品書の宛名が神武天皇になっておりました』、
『「30日で億万長者になる方法」とか「聞くだけでお金持ちになれるCDブック」とかを100円で売っているうちって、一体なんなんだろう?』、『夕方におばさまが「落ちていましたよー」と100円均一台の上に何か置いた。後で見に行ったら、キャベツだった』など可笑しい話が山盛りだ。
早稲田に行くのには、ここからは少し面倒である。
大江戸線で「春日駅」に出て、都バスに乗り換えて「大塚駅」に出る。
そこから都電荒川線で早稲田方面に向かい、「面影橋駅」で降りる。
駅から持参した地図を頼りに、目的地の古書店「現世」まで10分ほど歩く。
店の前に来てみたら、思ったより、かなり小さな店だった。
外に置かれた「100円均一本」を見ながら、中の様子を伺う。
店は狭く、横幅は1間半ほどで細長い。突き当りに、店主がレジの前で座っていた。
私は購入する2冊の100円均一本を渡しながら、店主に話し掛けた。
私 『いつも月刊HANADAのエッセイを読んでいます。374ページもある、単行本も買いました。とても癒される内容で、私は好きです』
店主『ありがとう御座います。時々、本を読んで訪ねて来る人がいます』
私 『早稲田古本街は、神田の古本街のようではないですね』
店主『昔は小さな古本屋が40件ほど軒を連ねてたが、今は少なくなりました』
・・・というような話を10分ほどした。
そして本題の、私の持っている画集の値段になった。
私達が夏の間、伊達市のゴルフ場に住んでいた時のお隣さんで、親しくしていた大藪雅孝画伯から、ある時、分厚い彼の画集を頂いた。今回の古本屋の訪問の話のネタにと思い、重いので写真だけ撮って持参した。売るつもりは無いが、幾らの評価が出るかと興味津々だった。
店主は自分の店の得意分野でないので、スマホで調べていた。
そして言った。『2000円くらいです』
当時は画商が得意先に5万円で売っていたのだが、25分の1かー!
(おまけの話)
都バスが大塚駅に着いた時に丁度、昼時となったので、ランチにした。
大塚では「みとう庵」という、「刻み鴨せいろ」の有名な店がある。
ここは6軒の支店があり、なんと参議院、外務省などにも店がある。
「包丁切りそば」が売りで、メニューには冬でも暖かいそばは無い。
私は今回は初めて「かき揚げせいろ」を注文した。
「細切そば」はのど越しは良いが、寒い日だったので、暖かいそばを食べたかった。
大塚で私の贔屓のもう1軒は、和菓子屋の「千成もなか本舗」である。
店の前に立ち『どら焼きを1つ、お願いします。横の椅子に座って食べます』と言った。料金の210円を払って椅子に腰掛けたら、すぐにお茶が出て来た。
でもショーケースにはあるのになぜか、なかなか「どら焼き」が出て来ない。
催促したら、『いま焼きあがりますから、少しお待ち下さい』と言われた。
目の前でどら焼きの皮を焼いていて、焼き上がったら「あんこ」を乗せて出て来た。
私は生まれて初めて、焼き上がりの「どら焼き」を食べたが美味しかった。
母が健在の頃の話だが、私は1回だけ早稲田にある「穴八幡宮」に行ったことがある。
今回は古本屋から近いので、懐かしくなり立ち寄ってみた。
穴八幡宮には「一陽来復」という御守がある。母は誰かに勧められたのか、それをもらうために配布の日に合わせて車で連れて行った。
またそれを居間に貼る日時も決っていて、冬至・大晦日・節分の夜中の12時に、その年の恵方の方向に貼るのである。あまり信心深くない母が、なぜこれだけはやったのか分からない。
北海道伊達市に2003年夏より毎年季節移住に来ていた東京出身のH氏。夏の間の3ヵ月間をトーヤレイクヒルG.C.のコテージに滞在していたが、ゴルフ場の閉鎖で滞在先を失う。それ以降は行く先が無く、都心で徘徊の毎日。
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